低価格でモバイル通信サービスを提供して人気を獲得してきたMVNO(仮想移動体通信事業者)。かつては個性ある料金プランで注目されたMVNOだが、ここ最近は一転して分かりやすさを重視するようになり、個性的なプランは姿を消しつつある。その背景には何があるのだろうか。

個性的な料金プランが次々と姿を消す

携帯電話会社からネットワークを借り、低価格のモバイル通信サービスを提供しているMVNO。最近は携帯電話会社のサブブランドなどに押され、かつてほどの勢いは見られなくなったものの、総務省が2019年12月20日に公表した「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」によるとMVNOサービスの契約数は2298万にまで達しているとのこと。非常に多くの人がMVNOのサービスを利用していることが分かる。

だが一方で、ここ最近のMVNOの動向を見ていると、個性が薄くなっている印象を受けるというのが正直な所だ。特にその傾向が顕著に出ているのが料金プランである。

それを示す例の1つが、ソニーネットワークコミュニケーションズがMVNOとして提供する「nuroモバイル」だ。nuroモバイルはかつて、1日5時間だけ高速通信がし放題となる「5時間プラン」や、午前1時から6時までの高速通信が無制限で利用できる「深夜割プラン」など、非常に特徴的な料金プランを提供するMVNOとして知られていた。

  • 「5時間プラン」など個性的なプランが特徴だったnuroモバイルだが、2018年に4つのシンプルな料金体系へとリニューアルしている

だが2018年10月の料金プランリニューアルでそうした個性的なプランは姿を消し、現在は毎月の料金に応じて高速通信できる容量が異なる「Sプラン」「Mプラン」「Lプラン」と、お試しで使ってみたい人に向けた0.2GBの「お試しプラン」の4つのプランに限定。一般的な携帯電話会社の料金プランと大きく変わらない内容へと変化している。

またNTTコミュニケーションズの「OCNモバイルONE」も、これまで月当たりの通信量が決められた通常のプランだけでなく、料金に応じて1日当たり通信できる容量が変わる日次のプランも提供しており、それが1つの特色となっていた。だが2019年11月の料金コースのリニューアルで日次のプランは姿を消し、月当たりの通信容量が1GBから30GBまでの6つのプランに統一化されている。

  • OCNモバイルONEも2019年11月に料金コースをリニューアルし、これまでの特徴だった日次コースを廃止するに至っている

“玄人向け”から“一般向け”への変化が大きく影響

なぜ個性的なプランが姿を消し、一般的なプランに統一する動きが進んでいるのかというと、そこにはMVNOを取り巻く環境が大きく変化したことが影響しているといえよう。

実はMVNOが注目されるようになった2014年以前は、携帯電話会社がMVNOにネットワークを貸し出す際に支払う接続料が現在よりも高額であったし、音声通話の回線貸し出しを受けるのも難しい状況にあった。そうした中で安価なモバイル通信サービスを提供するには、携帯電話大手より通信速度を落としたり、高速通信ができる時間帯を制限したり、音声通話の代わりにIP電話を用いたりするなど、サービスに工夫が必要だったのである。

またその頃のMVNOの利用者は、スマートフォンに非常に詳しい人が中心だった。なぜならMVNOは基本的に通信回線、さらに言えばSIMだけを提供していることから、MVNOのサービスを利用するにはSIMの差し替えなどスマートフォンへの詳しい知識が必須であるなど利用のハードルが高かったためである。

そうしたことからMVNOは、ある意味スマートフォンの“玄人”が多いことを前提に、低価格だが制約も多い、個性が強い料金プランを提供してきた訳だ。だがそうした動きが「格安スマホ」「格安SIM」として注目されるようになり、イオンリテールや楽天など大手企業が参入するようになったことで流れは大きく変わってくる。

  • 2014年にビッグローブが提供していた「LTEフルスピードSIM」の「音声通話スタートプラン」は、高速通信量は1GBまでだが3日当たり120MB通信するなど速度制限がかかる場合があり、公衆Wi-Fiとのセットでそれを補う仕様となっていた

というのもそうしたメジャーを志すMVNOは、より幅広い顧客を獲得するため安い料金で携帯電話大手から顧客を奪うべく、大手と同じような分かりやすい料金プランに力を入れるようになったからだ。

しかも時を同じくして音声通話回線の貸し出しが進んだほか、接続料が年々大幅に下がり、携帯電話会社と同じようなサービスを低価格で提供しても競争力を保てるようになってきたのである。そうしたことから徐々に個性的なプランは姿を消し、携帯電話大手と同様の分かりやすさを重視したプランやサービスへと集約されていったといえるだろう。

現在でもMVNOが個性的なサービスを提供する動きは時折見られるものの、料金プランとしてではなくオプションとして提供されるケースが増えている。実際、オプテージの「mineo」が、低速通信時の速度を最大500kbpsに向上させる「パケット放題」など新たなサービスを2020年3月3日より開始するとしているが、あくまで基本料金プランに追加するオプションという扱いになっている。

  • mineoの「パケット放題」は、低速通信時の速度を最大200kbpsから500kbpsにアップすることで、ある程度の動画視聴にも耐えられる定額データ通信を実現するサービスだが、基本プランに別料金で追加するオプション扱いとなる

最近MVNOの元気がないとはいえ、MVNOの利用者が着実に増えているのは事実だ。それだけに今後もMVNOには分かりやすさや安心感が求められ、尖ったサービスを提供するMVNOは減少していく可能性が高いといえそうだ。