これまでApple Storeでしか購入できなかった、アップルの「iPhone」シリーズのSIMフリー版モデル。だが2019年11月22日より、いつくかの家電量販店などでSIMフリー版のiPhoneが販売されることが明らかになった。アップルがSIMフリー版iPhoneの販路拡大に乗り出したのには、市場環境の変化を受けた販売戦略の転換を図る狙いがありそうだ。
法改正の影響で端末販売戦略を転換か
日本ではとりわけ人気が高いアップルのiPhoneシリーズ。多くの人はiPhoneを購入する際、回線を契約している携帯電話会社のショップで購入することが多いかと思うが、携帯電話会社から購入したiPhoneにはSIMロックがかかっており、分割払いで購入した場合はその解除に制限が設けられているため、もしSIMロックを解除して他社回線のSIMしたいと思った場合、時間や手間がかかってしまうことが多い。
ならばいっそのこと、SIMロックがかかっていないSIMフリー版のiPhoneを購入して、自分好みの携帯電話会社のSIMを挿入して利用したいという人もいることだろう。だがこれまで、アップルはSIMフリー版のiPhoneはApple Storeでしか販売していなかった。
もちろん、SIMフリー版のiPhoneはオンラインのApple Storeでも購入できる。だがApple Storeの実店舗の様子を見ると、為替の関係で海外より割安なせいなのか、一部では現在もiPhoneを購入する外国人の行列ができており、決して購入しやすいとは言い難い状況でもある。
そんな中、2019年11月19日にビックカメラやヨドバシカメラなど、いくつかの量販店が相次いでSIMフリー版のiPhoneを11月22日より販売すると発表、大きな驚きをもたらした。実際に販売される店舗は一部に限定されるようだが、それでもこれまでApple Storeにでなければ購入できなかったSIMフリー版のiPhoneが、身近な家電量販店などで買えるようになったことは大きな変化だ。
携帯電話会社での販売を重視してきたアップルが、SIMフリー版の販路を広げるという戦略転換を図ったのはなぜかといえば、やはり2019年10月に実施された、電気通信事業法改正の影響が大きいと考えられる。
この法改正によって通信契約に紐づいた端末の値引きは一律で禁止され、紐づかない場合であってもその上限は2万円までに規制されてしまった。そうしたことから携帯電話会社は、従来のように高額なiPhoneの新機種を割安価格で販売できなくなってしまったの。
だがもう1つ、アップルが大きな影響を受けているのが旧機種だ。改正法では製造が中止された端末に関して、製造中止から12カ月経過後に半額まで、24カ月経過後に8割までの範囲で値引き販売ができるという例外措置が設けられているのだが、アップルは1つの機種を値引きしながらも、長く製造・販売を続ける戦略を取っている。それゆえ販売を継続している「iPhone XR」や「iPhone 8」などはこの例外措置が適用されず、2万円の値引き規制を受けてしまうため携帯電話会社は割安に販売できないのだ。
期待が高まるリファービッシュ品の取り扱い
携帯電話会社が行政による厳しい値引き規制を受けたことで、アップルはこれ以上携帯電話会社経由での販売を伸ばすのは難しいと判断。これまであまり力を入れていなかった、SIMフリー版iPhoneの販路を広げることに活路を見出したといえるだろう。
それゆえ今後、アップルは海外で展開しているiPhoneの販売手法を日本でも展開してくる可能性がある。その一例となるのが、24回の割賦で端末を購入し、12カ月間支払った時点で新しいiPhoneに機種変更すると残債の支払いが不要になる「iPhoneアップグレードプログラム」である。
これは携帯電話会社が展開している端末購入プログラムに近いもので、携帯電話会社が実施すると改正法による規制を受けてしまうものの、メーカー自身が実施する分には規制を受けない。そうした独自の販売施策を日本でも展開することにより、規制によって今後落ち込む可能性の高い、携帯電話会社からのiPhone販売数をカバーしていくことが考えられるのだ。
また、アップルの方針転換によって期待が高まったのが、リファービッシュ品の国内流通である。アップルは自社認定の整備プロセスによって修理がなされた新品同様のリファービッシュ品を、「認定整備済み製品」として1年間の保証付きながら割安に販売しているのだ。
日本でも以前より、iPhone以外のリファービッシュ品はアップルから販売がなされているのだが、iPhoneに関しては一部のMVNOが正規ルート以外で独自に調達・販売してはいたものの、携帯電話会社の値引き販売で新品が割安に購入できたこともあってか、アップルが正規に取り扱うことはなかった。しかしながら法改正によってアップルが戦略を転換したことで、今後リファービッシュ品のiPhoneを国内で正規に扱う可能性も出てきたといえよう。
リファービッシュ品が日本でも扱われるようになれば、消費者にとっては安価にiPhoneを購入する手段が増えることとなる。それだけに、SIMフリー版も含めたアップル独自のiPhone販売戦略の変化には、今後大きな注目が集まることとなりそうだ。