5Gで携帯各社に割り当てられた周波数帯、有利・不利はあるのか
2020年の商用サービス開始に向け準備が進められている「5G」。その免許割り当てで、NTTドコモとKDDIが有利な周波数帯を獲得する一方、ソフトバンクは割り当てが申請より少なくなるなどの差が出ている。割り当てられる周波数帯の違いが、各社にどのような違いをもたらすのだろうか。
“地方重視”の政府方針でソフトバンクが不利な結果に
2020年春の商用サービス開始に向け、国内でも5Gに関する取り組みが増えているようだ。実際ソフトバンクは、2019年7月26日から実施されていた「FUJI ROCK FESTIVAL '19」で5Gのプレサービスを実施し、5G端末を通じ、VR空間内で離れた人同士がライブを見ながらコミュニケーションできるデモを披露している。
また2019年10月の新規参入を予定している、楽天モバイルの親会社である楽天は、2019年7月31日より楽天グループの総合イベント「Rakuten Optimism 2019」を開催。5Gのネットワークによるクラウドゲームのデモを行うなど、5Gを見据えたモバイルサービス展開をアピールしていた。
さらにNTTドコモは2019年9月20日より、ラグビーW杯に合わせて5Gのプレサービスを開始するほか、KDDIも9月に5Gのプレサービスを実施するとしている。多くの人が5Gに触れられる機会が、そう遠くないうちにやってくるのは間違いないだろう。
その5Gのサービスを提供する上で、重要なのが実際に通信をするための電波である。日本では5Gに用いる電波の周波数帯域として、3.7GHz帯(100MHz幅)を5枠、4.5GHz帯(100MHz幅)を1枠、そして28GHz帯(400MHz幅)を4枠用意。それをNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、そして新規参入の楽天モバイルの4社が申請し、2019年4月10日に割り当てがなされている。
その結果として、全ての事業者が28GHz帯を1枠ずつ確保したほか、NTTドコモは3.7GHz帯と4.5GHz帯を1枠ずつ、KDDIが3.7GHz帯を2枠割り当てられている。一方で2社と同様、3.7GHz帯または4.5GHz帯の2枠の割り当てを求めていたソフトバンクは、3.7GHz帯の1枠の割り当てにとどまった。楽天モバイルは元々3.7GHz帯の1枠割り当てを要望しており、要望通り1枠の割り当てを確保している。
こうした差が付いたのには、申請時のエリア展開の差が主に影響しているようだ。総務省は地方での5Gの早期展開を重視し、全国を10km四方のメッシュに区切り、そのうち人が住んでいなくても事業可能性があるとした4500のメッシュ数の中に、5G高度特定基地局を5年以内に50%以上展開することを免許割り当て条件の1つとしていた。その基盤展開率をNTTドコモは97%、KDDIは93.2%と申請していたのに対し、ソフトバンクは64%、楽天モバイルは56.1%であったことから、展開率が高い2社がより多くの周波数帯を確保したのである。
KDDIが5Gで「世界共通」に強いこだわりを見せた理由
だが、この周波数帯免許獲得には各社の戦略も大きく影響している。特に5Gで優位性の高い周波数帯の確保に力を入れたのはKDDIだったといえよう。
その理由は、KDDIに割り当てを受けた3.7GHz帯のうち1つが、3700~3800MHzという帯域で、5Gがサポートする周波数帯のうち「n77」(3300~4200MHz)と「n78」(3300~3800MHz)の2つをカバーしているため。中でもn78は韓国で既に使われており、欧米や中国などでも多く使われると見込まれている帯域なのだが、こちらはNTTドコモ(3600~3700MHz)とKDDIに割り当てられた帯域しかカバーしていない。
ネットワーク設備やスマートフォンのモデムなど、多くの通信機器はより多くの国や地域で利用される周波数帯域への対応を優先して開発され、特定の国や地域でしか使用されない帯域のカバーは後回しとなったり、カスタマイズでの対応となり追加コストが発生したりすることが多い。それゆえ携帯電話会社が機器導入コストを下げるには、なるべく多くの国で利用されている帯域の免許を獲得することが重要になってくるのだ。
そこでKDDIは、5Gで世界の多くの国で利用されるであろうn78をカバーする帯域の免許獲得に強くこだわり、NTTドコモに匹敵する規模の基盤展開率を打ち出すなど、意欲的な内容で免許を申請。無事目的の帯域の免許を獲得したのである。
その背景にあるのは、KDDIが長年、通信方式や周波数帯の違いで辛酸をなめてきたことだ。
実際KDDIは、前身の企業が展開していた1G、2Gの時代から、3Gの時代に至るまで、日米の摩擦などに巻き込まれる形で世界的に主流ではない通信方式の採用を余儀なくされてきたのに加え、周波数帯も世界的にあまり利用されていない帯域や、条件的に不利な帯域の割り当てが多く、機器調達では長年不利な立場に立たされてきた。それだけに5Gでは、是が非でも世界共通で利用されており、優位性の高い帯域を確保したかったといえよう。
一方、ソフトバンクは要望通りの周波数帯を獲得できなかったが、同社は5Gの周波数帯を増やすよりむしろ、既存の周波数帯を5Gに転用することを重視していると見られている。5G用の周波数帯はいずれも、従来の3Gや4Gなどに用いられているよりも高い帯域であり、障害物の裏に回り込みにくく遠くに飛びにくいなど、広いエリアをカバーするにはあまり向いていない。
もちろん5Gでは、そうした帯域を使いながらも広いエリアをカバーするための技術も導入されているのだが、低い周波数帯を使えば広範囲のエリアカバーが一層容易になることは自明だ。それゆえソフトバンクは、将来的に既存の周波数帯を5Gに転用することで、より低コストで広いエリアをカバーすることを考えているといえそうだ。
そうしたことから実際のところ、どちらの戦略が最終的に優位に働くのかは分からない部分も多い。それだけに、5Gの商用サービス開始後、周波数帯で明確な戦略の違いを取った両社のエリアカバー戦略には大きな注目が集まることになるかもしれない。