スマートフォンを活用したキャッシュレス決済サービスが急増しているが、その多くはQRコードを活用したものだ。日本では既に、非接触通信のFeliCaを用いた「おサイフケータイ」などのスマートフォン決済サービスが存在するにも関わらず、なぜ新たにQRコードを用いたサービスを提供する必要があるのだろうか。
QRコード決済に力を入れる理由とは
スマートフォンを活用したキャッシュレス決済サービスに参入する企業が相次ぎ、大きな盛り上がりを見せている昨今。高い還元率のキャンペーンを相次いで実施し、大きな話題となっている一方、2019年7月のサービス開始早々に不正利用が相次いだセブン&アイ・ホールディングスの「7pay」のように、セキュリティに関する問題でも話題をふりまいてしまった。
さまざまな意味で話題となっているスマートフォン決済サービスだが、多くのサービスに共通しているのが「QRコード」を用いた決済手段であるということ。スマートフォン上に表示したQRコードを読み取ってもらう、あるいは店頭のQRコードをスマートフォンで読み取るなどして決済するこの方法は、中国で「Alipay」「WeChat Pay」が急速に普及したものだ。
だがよくよく考えてみると、日本のスマートフォンには既に、FeliCaを用いた非接触型の電子マネーを用いた「おサイフケータイ」などの決済基盤が既に導入されている。しかもこちらは「Suica」「楽天Edy」などさまざまな電子マネーサービスが既に多くの店舗で利用できるようになっているし、端末をかざすだけで決済ができるのでQRコード決済よりスピーディーで便利だ。
にもかかわらず、セブン&アイ・ホールディングスが非接触決済の「nanaco」から、7payに決済の重心を移す動きを見せるなど、QRコード決済を重視する企業が増えているように見える。なぜFeliCaではなく、QRコードを用いる必要があるのだろうか。
その理由の1つとされているのは、QRコード決済の導入のしやすさだ。FeliCaベースの電子マネーサービスは、決済に専用のリーダーが必要となるため店舗側の導入コストが高く、導入しているのも小売り大手のチェーン店が中心だ。だがQRコード決済は、お店にQRコードを貼るだけで導入できるなど、導入にかかる手間やコストが少なくて済む。それゆえ中小店舗のキャッシュレス開拓の切り札になるとして、QRコード決済が重視されるようになった訳だ。
FeliCaの活用を積極化する海外企業
だがQRコード決済を採用する企業の本音は他にある。それは、FeliCaベースの決済サービスでは顧客データの取得に限界があることだ。
スマートフォン決済サービスに参入する企業の多くは、いつ、どこで、誰が、何を買ったという購買データを取得することで、それを企業のマーケティングなどに活用する新たなビジネスを開拓することを目的にしている。だがおサイフケータイなどは、あくまでカードが主体の電子マネーサービス基盤を用いる必要があることから、スマートフォン上の自社サービスの顧客情報と、決済情報を密に連動するのが難しく、取得できるデータに限界があった。
それゆえ企業側は、顧客情報と決済情報をより密に結び付ける仕組みを構築するため、既存の仕組みに依存しない、スマートフォンに特化した新しい決済サービスを提供する必要があった。そこで中国で人気となったQRコード決済に目を付け、他の決済サービスより低コストで導入しやすいこともあって、QRコード決済の活用を推し進めるに至ったといえるだろう。
一方で、逆にFeliCaベースのスマートフォン決済に力を入れる企業もある。それはスマートフォン向けのOSを提供する、アップルとグーグルだ。両社は共に2016年より、それぞれの決済サービス「Apple Pay」「Google Pay」でFeliCaベースの電子マネー対応を進めている。
なぜ外国企業の両社が、国内IT企業の関心が薄れたFeliCaの採用を進めるのかといえば、それはひとえに自社決済サービスのグローバル化のためだ。Apple PayやGoogle Payは、共に海外でもNFCを用いた非接触決済への対応を進めているが、それに加えて日本独自といえるFeliCaの非接触決済にも対応することにより、1つのスマートフォンで世界中どこでも決済できることを目指している訳だ。
日本の企業が中国由来のQRコード決済に熱を入れ、米国企業が日本のFeliCaの採用に力を入れるというのは何ともあべこべな話でもある。だがそこには、各社の思惑の違いが大きく影響している訳だ。