2018年末から、米国がファーウェイなど中国の通信機器メーカーを排除する動きを進めている。日本にもその波が及び、5Gでは中国メーカー製の通信設備が導入できなくなるとも言われているが、この問題はいつまで続くのだろうか。
消費者に影響はないがキャリアには大きく影響
2018年12月、ファーウェイの副会長兼CFOである孟晩舟氏がカナダで拘束されたことを期として、ファーウェイを巡る米国と中国との対立が表面化。米国が自国だけでなく、同盟国にもファーウェイなど中国メーカー製の通信設備を導入しないよう要請するなど、国際問題となって通信業界に大きな影響を与えている。
その影響は、米国の同盟国である日本にも及んでいる。日本政府が2018年12月20日に、政府のIT機器調達に関して「IT調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ」を公表しているが、具体的な国や企業の名前は記載されていないものの、その内容からこれが事実上、政府調達から中国メーカーの排除を示す指針なのではないかと言われている。
2018年末に連日その動向が報道されたことから、一連の問題に関しては記憶に新しい人も多いことだろう。ただ今回の出来事で、スマートフォンなどコンシューマー向けのファーウェイ製品の販売を政府が禁止した訳ではないし、ファーウェイ製端末からセキュリティ上明確な問題が見つかったという事実もない。今回の問題が一般消費者に直接影響を与えるものではないことは覚えておくべきだ。
ただ通信設備を導入するキャリアとなれば話は別である。例えばソフトバンクは、既にコアネットワークの一部にファーウェイやZTEなどの設備を導入していることから、政府の方針によっては、それら設備を排除しなければならないだろう。もし置き換えをするならば、10億円程度の投資が必要になるとのことだ。
またNTTドコモも、5Gに関する実証実験などを通じてファーウェイと関係を深めようとしていた。だが一連の出来事によって政府から何らかの方針が示されれば、ファーウェイからの機器調達も難しくなる可能性が高い。
米国側の懸念は5G時代のセキュリティか
しかしなぜ、米国は関係各国に影響を及ぼすほど、中国メーカーの通信設備を排除することに躍起になっているのだろうか。その背景には次世代通信規格「5G」を巡るセキュリティが大きく影響している。
4Gまでは携帯電話のネットワークの影響する範囲が、フィーチャーフォンやスマートフォンなど“個”のデバイスに限られていた。それゆえセキュリティの脅威が及ぶ範囲も、そうした個のデバイスに限られている。だが5Gになると、IoTの主要なネットワークに5Gが活用されると言われており、その影響範囲は自動運転車や遠隔医療、ドローンやスマートシティなど、今後の社会を構成する非常に多くの場面に及ぶ。
そうした5Gの時代に、ネットワーク上の機器にセキュリティ上の問題があったとなれば、その影響はスマートフォンから個人情報が盗まれるのとは比較にならない規模になる。それゆえ5Gの基幹ネットワークに、同盟国ではない中国の通信設備が多数入り込むことを米国側は懸念した可能性があるだろう。
ソフトバンクの代表取締役副社長執行役員兼CTOである宮川潤一氏は、同社が上場した時の記者会見で「4Gと5Gでは基地局の仕組みが違う。5Gでは基地局で情報を取るという仕組みはあり得ると思っている」と話している。そうした技術的な要素の変化も、米国側の懸念を高めている要因になっていると考えられる。
とはいえ現状、ファーウェイの製品でセキュリティ上何らかの問題が起きたという明確な事例はない。それだけに米国側は、政治的手段に打って排除に出るという、強引な措置を取る必要に迫られたといえそうだ。
そうしたことから中国メーカーの通信設備を排除する動きが本格化するのは4Gからではなく、5Gからとなる可能性が高いだろう。実際、日本政府が年末に打ち出した先の申合わせは、総務省が公表したキャリアが5Gの電波を獲得する上で求められる条件などが記述されている「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設に関する指針」でも留意が求められている。
2つの大国間に関わる政治的な摩擦が大きく影響しているだけに、この問題が早期に解決する可能性は低いと言わざるを得ない。もし今後も両国間の緊張が高まり、政治的な対抗措置の応酬がなされるようであれば、5Gだけでなく今後の通信技術の発展にも大きな影響が出かねないだけに、一層の懸念がなされるところだ。