全国津々浦々に存在する、NTTドコモの「ドコモショップ」。だが実は、NTTドコモが直接運営しているドコモショップは存在しないことをご存じだろうか。一部直営店を持つKDDI(au)やソフトバンクも、大半の店舗は自社では運営していない。キャリア自身がショップを運営していないのであれば、一体誰がショップを運営しているのだろうか。

キャリアショップの大半は"代理店"

携帯電話の大手キャリアは、全国に自社独自のショップを構えて、販売やサポートをしていることで知られている。最大手のNTTドコモは2000以上のショップを全国に構えており、携帯電話を買う時だけでなく、契約を変えたい時や端末の修理、さらには携帯電話料金の支払いなど、さまざまな対応をしてくれる。キャリアショップはユーザーにとっていざという時の頼みの綱となる、頼もしい存在なのだ。

だが実は、キャリアショップのほとんどは、キャリア自身が運営しているわけではないということはご存じだろうか。特に象徴的なのがNTTドコモで、実はNTTドコモが直接運営しているドコモショップは、1つも存在しないのである。NTTドコモが旗艦店として位置付けている「ドコモショップ丸の内店」や、関西での旗艦店となっている「ドコモショップグランフロント大阪店」も、NTTドコモが直接運営しているわけではない。

6月30日にリニューアルしたNTTドコモの旗艦店「ドコモショップ丸の内店」。だが運営しているのはNTTドコモではない

au、ソフトバンクも、直営店舗こそ持っているもののNTTドコモと傾向は同じ。auは東京・新宿にある「au SHINJUKU」などの大規模店のほか、札幌の「au SAPPORO」など中規模の直営店を合わせて8つの直営店を持つが(KDDI傘下の沖縄セルラー運営の1店舗を含む)、それ以外のauショップは直営ではない。ソフトバンクも「ソフトバンク銀座」「ソフトバンク表参道」などいくつかの直営店を持つものの、大半のソフトバンクショップはやはり直営ではない。

「ソフトバンク銀座」はソフトバンクの旗艦店の1つとして2012年にオープンした直営店だ

キャリアがショップを運営していなければ、一体誰が運営しているのか? というと、それは代理店である。キャリアと代理店契約を結んだ企業がキャリアのショップを運営しており、先のNTTドコモの店舗の場合、ドコモショップ丸の内店はNTTドコモの子会社「ドコモCS」が、ドコモショップグランフロント大阪店は「コネクシオ」という会社が、代理店として運営しているのだ。

販売代理店は元々、商社や端末メーカーの系列企業が多く展開してきたが、市場の飽和とともに商社系を中心としたM&Aによる統合を繰り返している。現在その大手となっているのは伊藤忠系のコネクシオのほか、住友商事系のティーガイア、丸紅系のMXモバイリング、そして家電量販店ノジマ系列のITXや、独立系の光通信などが挙げられる。

だがキャリアの販売代理店となっているのはこうした大手企業だけではない。地方では地場系企業が独自に代理店契約を結んで展開しているキャリアショップも多く見られ、その幅は以外と広いのだ。

代理店だけでなく直営店が必要になってきた理由

なぜ直営ではなく代理店を活用するのかといえば、やはりリスクやコストを抑えつつ、全国に販売・サポートの拠点を設ける上では、代理店に任せるスタイルを採った方が効率が良いからであろう。だからといって、キャリアは代理店に販売やサポートを任せきりにしているわけではない。

代理店が運営しているとはいえ、顧客に直接接するショップとスタッフはキャリアの“顔”でもある。スタッフの対応が悪ければ、それがそのままキャリアの評価へとつながってしまうだけに、キャリアは独自のショップスタッフ教育プログラムを用意し、さらにショップ店員の接客対応コンテストを実施するなどしてスキル向上を図るなど、ショップの運営改善には力を入れているのだ。

NTTドコモは全国の各地域を代表するショップスタッフを集め、顧客対応のスキルを競うショップスタッフの応対コンテストを毎年実施している

だが一方で、最近では代理店ではなく、キャリアの直営、あるいはキャリアの子会社が運営する「旗艦店」も多く見られるようになった。先に挙げた「ドコモショップ丸の内店」や「au SHINJUKU」、「ソフトバンク表参道」などは、そうした旗艦店の1つである。

なぜキャリアが直営、あるいはそれに近しい形で旗艦店を展開するようになったのかというと、そこには携帯電話市場自体の飽和が大きく影響している。キャリアショップにはこれまで、いかに新規顧客を獲得するか、MNPでユーザーを乗り換えさせるかが求められてきた。

だが市場環境の変化や少子高齢化によって新規加入者を大幅に増やすことが難しくなってきたことを受け、キャリアもショップのあり方を大きく変えようとしているのだ。

そうしたキャリアショップの新しいモデルケースを作るため、キャリア自身、あるいはそれに近い形でショップを運営することで、代理店の形態では取り組みにくい新たな取り組みを実施。そこで得られた成果を各代理店のショップにも反映させることによって、キャリアショップのビジネスを変えていこうとしているわけだ。

例えばauは、ショップでの待ち時間にタブレットで商品を購入できる「au WALLET Market」を展開しているが、旗艦店ではそれを一歩進めて、店頭でau WALLET Marketの商品の一部を購入できるようにするなどの取り組みを実施している。キャリアと代理店は立場こそ違えど双方がなければ成り立たない存在だけに、市場変化に応じてさまざまな形での協力関係を模索しているわけだ。

auの直営店の1つ「au SAPPORO」では、スマートフォンの購入などができるだけでなく、au WALLET Market内の商品を直接購入できるスペースも用意