グーグルが日本で新しいスマートフォン「Pixel 3」シリーズを発売し、話題となっている。グーグルはかつて「Nexus」というブランドで日本でもスマートフォンを提供していたが、なぜNexusからPixelへとブランドを変えるに至ったのだろうか。
米国に続き日本でも発売されたPixelシリーズ
2018年11月1日、グーグルは自社開発の新しいスマートフォン「Pixel 3」「Pixel 3 XL」を、日本で発売した。Pixel 3/3 XLはそれぞれ5.5インチ、6.2インチの有機ELディスプレイを搭載したスマートフォンで、最新のAndroid OSである「Android 9 Pie」を搭載するほか、AI(人工知能)やAR(拡張現実)など、グーグルの最新技術をふんだんに活用してカメラ機能を強化していることが、大きな特徴となっている。
実はPixel 3/3 XLは、その名前が示す通り、グーグルのPixelシリーズ・スマートフォンの第3世代に当たる。米国などでは2016年に初代「Pixel」、2017年に「Pixel 2」を発売しているのだが、日本では発売されなかった。そのため特に最新のAndroidを使いたい人達などを中心に、Pixelシリーズの日本発売を切望する声が多く上がっていた。
だがグーグルは、それまで国内で沈黙し続けていたのが嘘のように、Pixel 3/3 XLの発表前後には積極的なプロモーションを展開した。今後は日本でも、積極的にPixelシリーズを販売していこうという姿勢がうかがえる。
しかしグーグルのスマートフォンといえば、かつて日本でも「Nexus」シリーズが販売されていたことを、覚えている人も多いのではないだろうか。グーグルはPixelシリーズのスマートフォンを投入する以前、Nexusブランドでさまざまなメーカーと協力しながら、独自のスマートフォン開発を推し進めていたのである。
コストパフォーマンスの良さで人気となった「Nexus 5」や、イオンリテールが販売して「格安スマホ」の礎を作り上げた「Nexus 4」など、日本でも大きな注目を集めた端末がいくつか登場している。
だがグーグルは、2015年の「Nexus 5X」「Nexus 6P」でNexusシリーズを終了させており、2016年からはブランドをPixelに切り替えている。なぜ、グーグルはスマートフォンのブランドを変える必要があったのだろうか。
グーグルのハード戦略転換がブランドにも
その理由はスマートフォン、ひいてはグーグルのハードウェア戦略の大きな変化にある。インターネットサービスを主体としているグーグルは、元々ハードウェアを直接手掛ける企業ではなく、スマートフォンに関してもOSとなるAndroidと、その上で動作するアプリやサービスに注力していた。
それゆえNexusシリーズは、主としてアプリ開発者に向け、Androidの最新OSが利用できる標準モデルとして販売するという意味合いが強かった。実際Nexusシリーズで最も重視されたのは純粋なAndroidが動作することであり、それ以外の余分な機能は基本的に省かれていたことから、一般利用者向けとしては機能面で物足りなさがあった。
だがグーグルは、その後インターネット上だけでなく、実生活のリアルな場面でも利用できるサービスの提供に力を入れるようになってきた。実際、グーグルは近年、話しかけるだけでさまざまな情報を引き出せる音声アシスタントの「Googleアシスタント」や、スマートフォンを用い店頭でも使える決済サービスの「Google Pay」など、インターネット上で完結するのではなく、実生活での利用を想定したサービスに力を入れている。
しかしながらリアルに向けたサービスを提供するには、それを利用するためのハードも一体で作り上げていく必要がある。そこでグーグルは、2014年に、サーモスタットで知られるベンチャー企業のNestを買収したことを皮切りに、自社サービスが利用できるハードウェアにも力を入れようと戦略転換を図っているのだ。
グーグルの戦略転換を象徴しているものとして、日本では2017年に発売されたスマートスピーカーの「Google Home」が挙げられるが、実は初代Pixelが世の中に登場したのは、Google Homeと全く同じ2016年なのである。日本上陸のタイミングがずれたことでピンと来ないかもしれないが、グーグルは2016年から、自社でハードとソフトを一体にして提供するという戦略に大きく舵を切っていたのだ。
さらにグーグルは2018年、スマートフォンメーカーである台湾HTCのスマートフォン事業の一部を買収した。こうした動きからも、グーグルがハードウェア、ひいてはPixelに一層力を入れようとしていることは見て取れる。はたしてグーグルの思惑通り、スマートフォン市場で存在感を高められるかどうか、今後が大いに注目されるところだ。