スマートフォンを購入する際、多くの人は24回、48回などの割賦を組んで購入していることだろう。携帯電話の購入はかつて一括払いが主流だったのだが、なぜ割賦払いが主流となっていったのだろうか。そこには2つの要素が大きく影響している。
メリットもデメリットもある割賦払い
大手キャリアやMVNOなどでスマートフォンを購入する際、多くの人は一括払いではなく、2年間の割賦を組んで購入しているのではないだろうか。実際大手キャリアは、NTTドコモの「月々サポート」やソフトバンクの「月月割」など、24ヵ月以上という長期間の割賦払いで端末を購入してもらい、毎月の割賦料金から一定額を値引きするという仕組みを導入している。
また最近では、KDDI(au)の「アップグレードプログラムEX」のように、4年間の割賦契約をする代わりに、2年経過後に端末を買い替えた際に割賦残債をゼロにするという仕組みを導入するキャリアも増加。一層長期間の割賦を組む必要が出てきている。
なぜ割賦を組むのかといえば、最近では10万円を超える高額なスマートフォンも多く、高額なスマートフォンを購入しやすくするためである。実際キャリアの割賦払いは購入当初の料金負担が軽減されるし、利子が付くどころか値引きまで受けられてしまうなど、ユーザーにとって一定のメリットがあるのは事実だろう。
しかしながらこの割賦が問題となるのは、キャリアを解約する時である。当然のことながら割賦は全ての支払いが終わるまで残債があるし、キャリアを解約すると毎月の端末代にかかる割引も適用されなくなる。それゆえ残債がある状態でそのキャリアの契約を解除してしまうと、値引きなしで残債を一括払いする必要が出てきてしまうのだ。高額な端末を購入し、短期間で解約してしまった場合、携帯電話の解除料よりもはるかに高い料金を支払う必要があることから、キャリアが顧客を“縛る”要因として問題視する向きもある。 実は2000年代半ば頃まで、割賦を組んで携帯電話を購入するという発想はなかった。というのもかつては、毎月の通信料金の一部を、端末料金を値引く「販売奨励金」として活用し、端末価格を0円、1円といったように大幅に値引いて販売するのが一般的だったため。タダ同然で携帯電話が買えてしまうため、割賦を組む理由が存在しなかった訳だが、それが一転して現在のように端末価格が高くなり、割賦払いが主流になったのかというと、大きく2つの要因が影響している。
普及に影響したソフトバンクと総務省
1つはソフトバンクである。現在は総合通信会社として知られるソフトバンクだが、その前身は2006年に、現在のソフトバンクグループである旧ソフトバンクが、ボーダフォンの日本法人を買収して設立したソフトバンクモバイルである。
実は旧ソフトバンクは、この買収に際して1兆7500億円もの金額を費やし、膨大な借金を背負うこととなった。しかも当時、ボーダフォンの日本法人は不振が続き赤字経営。それゆえソフトバンクモバイルは資金が潤沢ではなく、従来のように販売奨励金による値引きという施策を取るのは難しかったのである。
そこで生まれたのが、現在の月月割にもつながる独自の端末購入プログラム「スーパーボーナス」である。これは端末を24ヵ月の割賦払いをする代わりに、頭金の支払いを不要にしたり、毎月の割賦料金から一定額を割り引いたりするなどの特典を提供するというもの。販売奨励金の代わりに長期間の割賦を組んでもらうというリースに近い仕組みを導入して端末を購入しやすくした訳で、ある意味苦肉の策だったともいえる。
その販売手法が一転して主流になったのには、もう1つの要因となる総務省だ。総務省は以前より、キャリアの販売奨励金による販売手法が、端末を頻繁に買い替える人だけが得をし、買い替えない人は損をする仕組みであるため、不公平だと問題視していたのだ。
そこで2007年に総務省が実施した有識者会議「モバイルビジネス研究会」で、端末代と携帯電話代は明確に分離すべきだとの見解がなされた。その結果、キャリアは従来のような販売奨励金による端末価格の大幅値引きが難しくなってしまった。そうしたことからソフトバンクモバイル以外のキャリアも、販売奨励金なしで端末を購入しやすくするべく、割賦払いを採用するに至ったのである。
通信料金と端末価格の問題はその後、スマートフォンが登場し、市場競争が激化したことで境界線が再び曖昧になり、その度総務省が有識者会議を開いてキャリアへの指導を加えていく……といういたちごっこが続いている。だが割賦払いは、値引きなしでも高額な端末を購入しやすくなるユーザーメリットがあること、そしてキャリアにとっても、ユーザーの長期契約に結びつくメリットがあることから、大手キャリアだけでなくMVNOやサブブランドにも広がり、定着しているようだ。