円安の長期化による価格高騰に加え、2024年末に再びスマートフォンの値引き規制がなされたことでスマートフォンは一層買いづらくなってしまった。スマートフォンメーカーにとってこれまで以上に輪をかけて厳しい市場環境となる2025年、大きく動くのはローエンドとハイエンドという、両極にあるスマートフォンではないだろうか。
ローエンドを制したメーカーが存在感を高める
2024年末に電気通信事業法のガイドライン改正が実施されたことで、スマートフォンの大幅値引き販売が再び困難な状況となった。長期化する円安が継続する限り、2025年は2024年以上にスマートフォンが売れないことが確約されたといっても過言ではない。
そしてこの影響を、とりわけ大きく受けるとみられるのはスマートフォンメーカーだ。市場がより一層冷え込むであろう2025年はメーカー各社にとって日本市場での生き残り策が大きく問われる年となりそうだが、2024年の傾向を振り返るに、2025年の日本市場でメーカーが取る施策は、大きく2つあると考えられる。
1つはローエンドスマートフォンの強化だ。携帯電話会社もスマートフォンの値引き規制が厳しく、売れなくなってきていることから調達するモデルを絞る傾向にあり、より確実に売れるミドルクラスのスマートフォン調達に重点を置くようになってきている。
だが携帯電話会社がいま最も欲しているのは、実はミドルクラスより安価な、3万円前後で購入できるローエンドのスマートフォンではないかと筆者は見ている。3万円前後であれば値引きなしでも安く購入できるし、電気通信事業法で認められている最小限の値引きを適用すれば、一括でも1万円前後で購入することが可能だ。
携帯電話会社にとって販売しやすいローエンドモデルはニーズが高まっている一方で、価格が安いだけに円安の状況下では利益を出すのが難しく、提供するメーカーが減少傾向にあった。実際、旧FCNTが経営破綻に至ったのも、携帯各社のニーズが高まったローエンドモデルに注力したところ、円安などが直撃して利益が出せなくなったためと見られている。
それだけに2024年は、そのローエンドモデルに力を入れたメーカーがシェアを大きく伸ばした印象を受ける。具体的に言えば、2023年10月にKDDI、そして2024年4月にソフトバンクから発売された「Redmi 12 5G」を提供する中国のシャオミや、2024年7月にソフトバンクのワイモバイルブランドから「moto g64y 5G」を提供した米モトローラ・モビリティなどがそれに当たる。
ゆえに2025年は、ローエンドのスマートフォンで大きな成績を収めたメーカーが市場で大きな存在感を示すことになるのではないだろうか。とりわけモトローラ・モビリティを傘下に持ち、なおかつ「arrows We」シリーズなどローエンドの人気モデルを持つFCNTの事業を承継した中国のレノボ・グループは、市場での存在感を大きく高める可能性が高い。
メーカー直販の拡大で重要性高まるハイエンド
ただローエンドモデルは薄利多売のビジネスとなるため、それで利益を出せるメーカーはかなり限られてくる。そこでより多くのメーカーが取ることになるのは、ハイエンドモデルの販売強化ではないかと筆者は見ている。
機能が豊富で性能も高いが、価格は20万を超えるなど非常に高額なハイエンドモデルは、大きな関心を集めやすい一方で値段も非常に高く、政府によるスマートフォン値引き規制の影響もあって携帯大手が調達を減らす傾向にある。それにもかかわらず、2024年には高額なフラッグシップモデルをあえて投入する動きが強まっていたのだ。
実際2024年には、これまでフラッグシップモデルを投入してこなかったシャオミが、フラッグシップの最上位モデル「Xiaomi 14 Ultra」をあえて日本市場に投入しているし、中国オッポもおよそ3年ぶりにハイエンドモデルの新機種「OPPO Find X8」を投入。また当初ハイエンドモデルを投入しないと見られていたシャープも、秋冬商戦に向けて「AQUOS R9 Pro」をあえて投入したことに驚きの声が多く挙がっていた。
売れないはずのハイエンドモデルにメーカーがあえて注力するのには、販売の主導権が携帯電話会社からメーカー側に移りつつあることが影響している。日本のスマートフォンは依然、携帯大手3社からの販売数が多いことに変わりはないのだが、一方で政府のスマートフォン値引き規制の影響によってその調達数が落ち込んでおり、メーカー側も携帯電話会社に依存していては販売を伸ばせなくなってきている。
そこでここ数年のうちに、スマートフォンをメーカー自身がオープン市場に向けて直接販売する取り組みが急拡大しているのだが、実は携帯電話会社とメーカーが売りたいスマートフォンには大きな違いがある。携帯電話会社は通信回線の契約を獲得するのが主目的であるため、多くの人に売りやすいスマートフォンを求める傾向にあるのだが、メーカーにとってメリットが大きいのは高い利益を出せるスマートフォン、より具体的に言えば値段が高いハイエンドモデルである。
そして20万円以上するスマートフォンを購入してくれる顧客は、そのメーカーのファンでもあり、他の製品の購買につながる可能性もある重要な顧客でもある。それゆえメーカーによる直接販売の傾向が一層強まる2025年は、少数のユーザーに向けてあえてハイエンドモデルを投入し、ファンの獲得に注力する動きも一層強まってくるのではないだろうか。
もちろん、国内での販売の主力がミドルクラスであることに大きな変わりはないだろうが、2025年はローエンドとハイエンドという両極にあるスマートフォンで大きな動きが起き、それが市場全体に大きな影響を与えるのではないかと筆者は予想している。