この年末、携帯電話ショップの店頭で電気通信事業法改正をうたうポスターなどを多く見かけるようになった。その背景には2024年1月26日の電気通信事業法ガイドライン改正によって、スマートフォンの値引きが再び規制されることが影響しているのだが、そのことに携帯電話ショップが強い危機感を示しているのはなぜだろうか。

ガイドライン改正で新たなスマホの値引き規制も

2024年も年の瀬を迎えたが、ここ最近いくつかの携帯電話ショップの店頭を通ると、2024年12月26日に電気通信事業法が改正されることをうたうポスターを貼り出す店舗が多く見られた。中には「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」が改正されると、かなり具体的に記述してあるケースもあった。

さらに一部の携帯電話会社では自社ショップだけでなく、駅などのイベントスペースに臨時のショップを設け、そちらでも電気通信事業法改正をうたいスマートフォンを販売するケースが見られた。だがそれらポスターには、電気通信事業法の改正で何が変わるのかは記されておらず、興味を持った人をショップに呼び込むことが目的となっていたようだ。

  • 急増した「電気通信事業法改正」のポスターから見える携帯ショップの危機感

    2024年12月末に携帯電話ショップ店頭で多く見かけた電気通信事業法改正をうたうポスター。具体的な改正内容には触れておらず、興味を惹くことが目的とみられる

ではこの改正が何をもたらすのかというと、消費者には大きく3つの要素が影響してくる。1つは前回(第183回)で触れたいわゆる「お試し割」の解禁、2つ目はミリ波に対応したスマートフォンの値引き規制緩和。そして3つ目が新たなスマートフォンの値引き規制強化である。

これは2023年末の電気通信事業法一部改正で、いわゆる「1円スマホ」の販売手法が規制されたことを受け、ソフトバンクが主導して進められていた、端末購入プログラムを活用したスマートフォンの大幅値引き手法を規制するものになる。

その値引き手法とは、分割払いでスマートフォンを購入した後、1年と早期に返却することで実質的な支払額を大幅に引き下げるというもの。携帯各社は端末購入プログラムで返却されたスマートフォンを中古市場に売却することで残りの支払い分を補填しているが、中古市場では新しい端末ほど買取額が高くなるので、返却時期を短くすることで買取額を高く設定し、その分より大幅な値引きを実現している訳だ。

だがその買取予想額は、従来携帯電話会社が独自に決めていたため、買取予想額を高く見積もればその分値引き額を増やすことができた。そのことを問題視した総務省が、今回のガイドライン改正で中古携帯ショップの団体、リユースモバイルジャパン(RMJ)の買取平均額を基に買取予想額を算出するという統一基準を設け、買取予想額のつり上げを阻止し大幅値引きを規制するに至った訳だ。

  • 総務省「競争ルールの検証に関するWG」第57回会合資料より。従来端末購入プログラムの買取予想額に統一した基準は設けられていなかったが、今回のガイドライン改正によりRMJの平均買取額を基準として算出することが求められるようになった

携帯ショップの次なる武器は「お試し割」か

それゆえ先のポスターは、2024年12月26日以降改正ガイドラインが適用され、端末購入プログラムを活用した大幅値引き手法を適用できなくなることを受け、スマートフォンを安く購入したい人達の駆け込み需要を狙ったものと見られている。実際、法改正をうたうポスターの周辺にはスマートフォンを「実質1円」で利用できるなど、値引き販売をアピールするポスターが貼られていることが多かった。

  • 電気通信事業法改正をうたうポスターの周辺に、スマートフォンの値引き販売に関するポスターが掲出される例も多い

なぜそれだけ、携帯電話ショップが値引き規制前の駆け込み需要獲得に力を入れるのかといえば、それが携帯電話ショップの評価、ひいては売り上げにつながるからだ。携帯電話ショップの大半は販売代理店が運営しており、販売代理店が売上を増やすには携帯電話会社に高く評価される必要がある。

なぜなら携帯電話ショップのビジネスは、携帯電話会社が求める携帯電話サービスなどの契約を多く獲得するほど、店舗の評価が上がり売り上げも増える仕組みだからだ。そして携帯電話ショップが契約を獲得する上で重要な武器となっているのが、消費者の興味をひきやすいスマートフォンの大幅値引き販売なのである。

だがその大幅値引き販売が規制されるとなれば、消費者の関心を惹き付けるのが難しくなり、契約も伸ばせなくなってしまう。それだけに規制強化前の駆け込み需要に照準を合わせ、法改正というインパクトのあるポスターで興味を惹き、スマートフォンの値引き販売による契約獲得へとつなげようとしたのではないだろうか。

だが当然のことながら、法改正がなされた後は大幅値引きができなくなり、契約獲得も難しくなってくる。そうした状況下で携帯電話ショップは2025年、何を契約獲得の武器にしていくのかというと、それは今回のガイドライン改正で解禁された「お試し割」になるのではないかと筆者は見ている。

お試し割については前回詳しく触れているが、要は携帯各社に対して1人当たり1回限り、2万2000円までの割引を6カ月間認めるというものになる。そして2024年は第175回で触れたように、SIM単体で契約することで2万2000円までのキャッシュバックが受けられる施策が多く展開され、携帯電話ショップが顧客を獲得する武器の1つとなっていた。

そうしたことを考えると、2025年はサブブランドや低価格プランなどで、SIMのみ契約にお試し割を取り入れて6ヵ月の割引をうたい、契約を獲得する施策が大幅に強化されるものと考えられる。ただSIMのみ契約に関しては、キャッシュバックを目当てに携帯電話会社を渡り歩く「ホッピング」と呼ばれる行為が問題視されているだけに、一連の施策がホッピングの加速につながる可能性も懸念されるところだ。