石川県とKDDIは2024年10月25日に石川県と包括連携協定を締結。KDDIのデジタル技術を用いて石川県のデジタル化を推し進め、2024年に能登半島で相次いだ自然災害からの創造的復興に取り組むものとなるが、KDDIはどのような技術と考えを持ってもって復興への取り組みを進めようとしているのか。代表取締役社長の高橋誠氏にグループインタビュー形式で話を聞くことができた。
Starlinkとドローンでローソンを「地域防災コンビニ」に
1月1日の能登半島地震、そして9月に発生した奥能登豪雨と、2024年に相次いだ自然災害で非常に大きな被害を受けている石川県の能登地域。現在もその復旧・復興に向けた取り組みが進められている最中だが、企業の側もさまざまな取り組みで能登地域の復旧・復興に取り組んでいる。
その1つがKDDIだ。同社は能登半島地震や奥能登豪雨の際にも、提携関係にあるSpace Exploration Technologies(スペースX)の「Starlink」による衛星通信サービス用機器を積極投入し通信インフラの早期復旧を図った。加えてドローンの積極活用も進め、奥能登豪雨の際には道路の早期復旧のため、ドローンを飛行させ被災状況を確認するなどの取り組みを進めている。
そうした取り組みが石川県から評価されてか、2024年10月25日には石川県とKDDIが、創造的復興の実現に向けた包括連携協定を締結するに至っている。この協定により石川県は、KDDIがもつデジタルの技術や知見を活用して県民向けサービスの向上や地域のDX人材の育成を進めるとともに、より強靭な地域作りをする「創造的復興」の実現を目指すとしている。
石川県の馳浩県知事は、今回の協定に関して「喉から手が出るほどお願いしたかった」と話すなど非常に高い期待を寄せている様子をうかがわせる。ではその一方で、KDDIとしては今回の協定にどのような考えを持って取り組んでいるのだろうか。
高橋氏は今回の取り組みが、大きな被害を受けた奥能登地域を災害前の状況に戻すのではなく、デジタル技術を有事の際だけでなく平時からも活用することで地域創生を進めるものになると説明。その具体的な取り組みの1つとして挙げられているのが「地域防災コンビニ」である。
これはKDDIが経営に参画したローソンの店舗を拠点としてStarlinkやドローンの発着ができるポートを配置し、非常時にそれらを活用してネットワークの復旧や被災状況の確認、救助者の捜索などに活用することを目指すもの。2024年度内に石川県内の一部店舗で実証を実施する予定だとしている。
中でも高橋氏が期待を寄せているのがドローンの活用だ。高橋氏によると、米国のラスベガスでは警察がドローンを活用し、緊急通報があると即座にドローンが飛行して状況を把握するという取り組みを実施しているとのこと。そこで高橋氏はそうした取り組みを能登地域でも実施し、平時から防犯などにも対応できる環境を整えたいと意欲を見せる。
地方のデジタル人材不足にどう対応するのか
ただ少子高齢化による人口減少が著しい地方の社会課題を解決するテクノロジーとして、注目されているものはそれら2つだけに限らない。公共交通不足の課題を解決する自動運転など、さまざまな技術の活用が考えられるだろう。
それゆえ高橋氏は、今後複数のテクノロジーを組み合わせた新たなソリューションを開拓にも期待を寄せているようだ。実際同社は清水建設らと、Starlinkを活用して北海道新幹線のトンネル建設現場からロボットやドローンを活用してトンネルの坑内外の3Dの点群をリアルタイムで伝送する実証実験を実施しているのだが、こうした取り組みにはスペースXの側からも驚きの声が挙がるという。
それだけに高橋氏は「日本人はそうした組み合わせがめちゃくちゃ上手いんじゃないかと最近思っている」と話し、複数の技術を組み合わせることで大きな価値を生み出せると考えているようだ。とりわけ自動運転はこれから旬になる技術として注目しており、ライドシェアには抵抗感を示す人が多い一方、タクシーを自動運転にすることに対しては非常に前向きの声が多いとのこと。それだけに、現時点で具体的な取り組みがある訳ではない様子だが、取り組み自体には前向きな様子だ。
ただ地方でデジタル技術を活用する上で、非常に大きな課題となってくるのがデジタルに長けた人材の不足だ。ハード面の整備がどれだけ進んでも、デジタルを活用できる人材がいなければその環境を生かすことはできない。
そうした課題を解決する上で、高橋氏は1つにリモートの活用を挙げている。コロナ禍を経てリモートの活用が大きく進んだこともあり、リアルに人材を派遣しなくてもリモートである程度対応できる部分が増えているという。
ただ一方で高橋氏は、地方の行政機関からは人材の提供に対する要請を非常に多く受けているとのこと。そうしたことからKDDIとしても要望のある自治体に人材を提供する施策を進めていくというが、そのモデルケースとなるのが現在の石川県における馳知事と副知事との関係だと高橋氏は話す。
石川県では現在、経済産業省から副知事が起用されているが、馳知事は副知事が「僕の家庭教師」と話しているとのこと。経済産業省における国の動きを政策決定の参考にしつつ、石川県での取り組みを国の側にフィードバックする体制が取られているそうで、KDDIでもこれをモデルケースにしながら、地方自治体へデジタル化のハブとなる人材を提供していきたい考えのようだ。
ではKDDIとして、石川県と同様の協定をどれくらいの自治体と締結して広げていきたい考えなのだろうか。高橋氏は「要望があったら広げていければいいと思う」と話し、今後も自治体との協定には前向きな姿勢を見せる。
有事に対応できる体制の整った地域は必ずしも多いとは言えないだけに、今回の石川県との協定による取り組みが1つのモデルとして伝わることで、他の自治体からも声がかかる可能性が高まるものと高橋氏は見ているようだ。実際、KDDIがローソンの経営に参画してその取り組みを明らかにした際にも、地方自治体から引き合いがいくつかあったとのことで、自治体側からKDDIの取り組みに強い期待が寄せられている様子を示している。
自然災害は今後も激甚化することが予想されるだけに、デジタル技術を活用した従来にない取り組みで防災を進めることは非常に重要だ。通信とコンビニエンスという2つの大きな社会インフラを持つこととなったKDDIが、今回の協定でどのような役割を果たして能登地域の創造的復興を実現できるかは、今後の日本社会を考える上でも重要なものとなり得るだけに今後大きな関心を呼ぶことになるのではないだろうか。