コンビニエンスストア大手、ローソンの経営に参画したKDDI。2024年9月18日には三菱商事を交えた3社でローソンの新たな取り組みを明らかにしたが、中でも注目されるのは、KDDI以外の携帯電話ユーザーに対してどのような形で価値を提供するかということ。新たに打ち出した「Pontaパス」や「povo」の取り組みから、「auのコンビニ」で終わらないローソンの施策を追ってみよう。

「未来のコンビニ」を2025年に新社屋で実証

5000億円規模のTOB(株式公開買い付け)でコンビニエンス大手、ローソンの株式を50%取得し、同じく50%の株式を持つ三菱商事と共同で経営に参画することを打ち出した通信大手のKDDI。異業種がコンビニエンスストアの経営に参画することで大きな話題となった一方、全くの異業種だけにKDDIが参画することで、ローソンにどのような価値がもたらされるのか? という疑問点が浮上したことも確かだ。

そこでKDDIと三菱商事、ローソンの3社は、TOBが完了した後の2024年9月18日に記者説明会を実施。ローソンの「未来のコンビニ」への変革に向けた取り組みを明らかにしている。そこで明らかにされたのは、1つに「Real×Tech Convenience」の拡大である。

  • KDDIがローソンの経営に参画、「auのコンビニ」にとどまらない施策とは

    KDDIと三菱商事、ローソンの3社は2024年9月18日に記者発表会を実施。KDDIの参画によるローソンの新たな取り組みについて具体的な説明がなされている

これはリアルな接点を持つローソンに、KDDIが持つデジタル技術を取り入れることで、新しいコンビニエンスストアの形を実現するというもの。具体的には品出しや店内清掃、配送などへのロボティクス技術の導入や、スマートフォンを活用した「スマホレジ」、AI技術を活用して顧客属性に応じた商品などを提案するデジタルサイネージ、そしてリモートで通信や保険、医療などさまざまなサービスが受けられる、リモート接客プラットフォームの導入などだ。

  • KDDIのデジタル技術を取り入れた「未来のコンビニ」に向けた今後の施策も紹介。リモート接客プラットフォームのデモでは、携帯電話の機種変更から医療相談まで、1つのスペースでさまざまなサービスが受けられる様子が示されていた

ただ当日の説明を聞く限り、その多くが具体的な提供時期が決まっている訳ではなく、サービス開発途上という印象を受けたというのも正直な所である。そこでKDDIは、2025年の春を目途として本社を移転する、東京の高輪ゲートウェイ駅にある「TAKANAWA GATEWAY CITY」にローソンを2店舗オープン。それらをある意味で実証の場として活用することで、最新技術を活用したサービスの実証を進めながら日本全国、あるいは海外のローソン店舗への導入を進めていきたい考えのようだ。

2つ目は、地域の課題解決に向けた自治体との連携である。全国に多くの店舗網を持つコンビニエンスストアは社会インフラの1つとして注目されている部分もあることから、KDDIが持つ技術を活用した防災や災害への対処などを自治体と推し進め、203年にはローソンの店舗を核に街づくりを進める「ハッピーローソン・タウン」構想を実現したいとしている。

  • ローソンは2030年に、ローソンの店舗を軸として街づくりを進める「ハッピーローソン・タウン」構想を実現したいとしている

顧客接点強化に「Ponta」と「povo」を活用

ただこうした取り組みは、どちらかといえば将来を見据えたものといえ、具体性にやや乏しい印象もある。消費者目線で注目される3つ目の施策となるのは、ローソンとKDDI、そして両社が活用しているロイヤリティ マーケティングの共通ポイントプログラム「Ponta」を活用した顧客接点の強化だ。

KDDIは「au」「UQ mobile」などで多くの顧客を抱えており、ローソンとはPontaポイントによる連携も可能なことから、KDDIの顧客をローソンに誘導して売り上げを高める、というシナリオはとても描きやすい。ただそれだけでは、ローソンが「auのコンビニ」と認識されてしまい、NTTドコモやソフトバンク、楽天モバイルなど競合サービスの利用者が離れてしまう懸念もある。

それだけに今回打ち出された施策は、いずれもKDDIの顧客以外に配慮した内容となっている。その1つとして挙げられるのが「Pontaパス」だ。

これは従来、KDDIが「auスマートパスプレミアム」として、主としてauユーザーなどに向けて提供していたサービス。月額548円を支払うことで、さまざまなクーポンやスマートフォンに関連するサービスが利用できるというものだ。

そしてKDDIは今回のローソン経営参画に合わせる形で、2024年10月2日からサービスの名称をPontaパスに変更。元々KDDI以外のユーザーも利用できるサービスではあったのだが、KDDIの色が強い「au」から名称を変更しPontaのブランドを前面に打ち出すことで、より多くの人に関心を持ってもらうのが狙いだろう。

  • 従来「auスマートパスプレミアム」として提供されていたサービスを、2024年10月2日から「Pontaパス」に名称変更。共通ポイントの「Ponta」を前面に打ち出すことで、KDDI以外の携帯電話サービス利用者へのアピールを強めていくようだ

それに加えてPontaパスでは、ローソンの商品が無料、あるいは割引になるクーポンが600円分以上相当を提供するほか、スマートフォン決済の「au PAY」で決済することで、最大で通常の4倍となる2%のPontaポイント付与が受けられる特典なども提供。サービスのお得さを高めてKDDI以外のユーザーを取り込みたい狙いもあるといえそうだ。

そしてもう1つ、大きな取り組みとなるのが「povo」を活用したサービスである。具体的にはローソン店舗に訪れることで1回当たり100MB、月当たり1GBのデータ通信量が無料でもらえる「povo Data Oasis」が提供されるほか、新たに全国のローソン店舗で、povoのデータ専用eSIMを購入できるPOSAカードを販売するという。

  • ローソン店頭に訪れることで「povo」のデータ通信量が月当たり1GB、無料でもらえる「povo Data Oasis」を提供。サブ回線として導入しやすいpovoを活用してローソンへの集客を図る方針も示された

povoはKDDIの通信サービスではあるものの、プリペイド方式に近いサービスであることから、KDDI回線以外の人もeSIMに登録することで、サブ回線として利用しやすい。そこで携帯電話会社を問わず“ギガ不足”になりやすい人に対し、サブ回線としてpovoを使ってもらうことでローソン店舗に訪れる動機付けを与え、購買へとつなげたい狙いがあるといえそうだ。

これら2つの施策を見るに、KDDIやPontaが持つ特性をうまく生かしてローソンへの誘導を図っていると感じる一方、既存のリソースを活用していることもあって実店舗のローソンで利用することを考えると不足している部分もあるように感じてしまう。

とりわけPontaパスに関しては、auやUQ mobileの利用者はクレジットカードでの支払いが求められることから、毎月の通話料と合算で支払うことができるau・UQ mobile以外のユーザーが利用する敷居が高い。povoのようにPOSAカードでPontaパスを販売し、都度利用ができる仕組みも構築できれば、実店舗との連携というポテンシャルをより発揮しやすいのではないだろうか。

他にもまだ課題が少なからずあると感じる部分はあるのだが、今回の発表でKDDIがローソンの経営に関わることでの一定の方針が示されたことは確かだ。一連の取り組みが功を奏してローソンの事業拡大につながるのかどうか、まずはPontaパスやpovoの施策、そして2025年の実店舗での取り組みを見守る必要がありそうだ。