シャオミは2024年5月23日、「POCO」ブランドのスマートフォン「POCO F6 Pro」と、タブレット「POCO Pad」の2機種を発表した。オンラインに販路を絞ることで高性能な端末を低価格で提供することに力を入れたPOCOブランドだけに、両機種とも非常に高いコストパフォーマンスを実現しているが、日本で受け入れられるためのハードルは小さくない。

2年ぶりにPOCOブランドの新製品を投入

円安と政府のスマートフォン値引き規制でかつてない程厳しい状況にある日本のスマートフォン市場で、気を吐いているメーカーの1つに挙げられるのがシャオミだ。同社は既に2024年5月9日に新機種発表イベントを実施しており、最上位のフラッグシップモデル「Xiaomi 14 Ultra」を日本で初めて投入するなど、攻めの姿勢を見せている。

そのシャオミが矢継ぎ早に次の手を打ってきており、それが「POCO」ブランドの新製品発表である。POCOブランドはオンライン販売専用のブランドで、「Xiaomi」「Redmi」といったシャオミのブランドとは独立した運営体制を取っているのが特徴だ。

それゆえ製品にも特長があり、最新・最先端を追い求めるのではなく、オンライン専売であることを生かして高い性能のモデルを低価格で提供する、コストパフォーマンスを非常に重視している。実際、2024年に日本で最初に販売されたPOCOブランドのスマートフォン「POCO F4 GT」は、ハイエンド向けのチップセットを搭載し、120Wの急速充電に対応しながらも、発売当時の価格が7万円台からと、非常に高いコストパフォーマンスを実現していた。

  • 「POCO」はシャオミの中でも、「Xiaomi」「Redmi」とは異なる独立したブランドと位置付けられており、販売をオンラインに絞って高性能ながら価格は安い、高いコストパフォーマンスの追及に力を入れている

    「POCO」はシャオミの中でも、「Xiaomi」「Redmi」とは異なる独立したブランドと位置付けられており、販売をオンラインに絞って高性能ながら価格は安い、高いコストパフォーマンスの追及に力を入れている

日本ではPOCO F4 GT以降新機種の投入がなされていなかったPOCOブランドなのだが、シャオミは日本市場攻略をさらに強化するためか、2024年5月23日にPOCOブランドの新機種を発表。同日には海外でPOCOの新製品発表イベントが実施されており、その直後に日本での発売も打ち出す点からも力の入れ具合を見て取ることができるだろう。

今回日本での発売が発表された新機種は2機種あり、1つはスマートフォンの新機種「POCO F6 Pro」。チップセットにはクアルコム製のハイエンド向けとなる「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載しており、RAMは12GB、ストレージは256GBまたは512GB(モデルによって異なる)。加えて独自の冷却機構「リキッドクールテクノロジー4.0」も備え、ゲーミングなどの高負荷時もパフォーマンスを維持できるようにしている。

  • シャオミの「POCO」ブランドの新機種「POCO F6 Pro」。「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載する高性能ながら、価格は最小構成で7万円以下に抑えられている

Snapdragon 8 Gen 2はハイエンド向けとはいえ、1世代前のものなので最先端という訳ではないのだが、ハイエンドモデルを欲するユーザーのニーズが大きいゲーミングで重要となる、高い性能を備えていることに間違いない。それに加えてPOCO F6 Proは、従来あまり力を入れていなかったというカメラ関連の機能・性能も強化を図っており、日常使いも意識した内容に仕上がっているようだ。

それだけの性能を備えながら、価格は6万9980円からと、7万円を切る価格で購入できるという。もちろん日本での利用を考慮するならば、FeliCaが搭載されていないことや、NTTドコモの5G周波数帯の一部に対応していないことなど不便な要素は少なからずあるのだが、そうした点を割り切れるのであれば非常にお得であることは間違いない。

そしてもう1つの新機種が「POCO Pad」である。こちらは12.1インチのディスプレイを搭載したタブレットで、チップセットにはクアルコム製のミドルハイクラス向けとなる「Snapdragon 7s Gen 2」を搭載。それでいて価格は4万4800円と、発売日は6月中旬以降とやや先ながらも非常にお得感の高い価格を実現している。

  • POCOブランドでは初のタブレットとなる「POCO Pad」の投入も発表。ミドルハイクラスの性能を備えながら、価格は4万円台とやはりお得感が高い

日本ではスマホのオンライン販売が根付いていない

シャオミは元々コストパフォーマンスに優れたスマートフォンをオンライン限定で販売することにより、ファンを獲得し成長を遂げてきた経緯がある。それだけに、POCOブランドはある意味でシャオミの本来のビジネスを踏襲するブランドともいえ、そのPOCOブランドの展開を日本で積極化してきたことは、シャオミがオンラインを主体とした独自の販路開拓に力を入れようとしている様子を見て取ることができる。

  • POCOブランドの端末出荷台数は、ブランドを開始した2018年からの6年間で6000万に上るとのことで、オンライン専用ながら大きな成功を収めている様子を示している

確かにオンラインを主体にしたPOCOブランドの手法は、スペックやコストパフォーマンスを重視する層に“刺さる”物であることに間違いない。ただ日本の場合、そうした人達がどれだけいるのか? という点が、販売を拡大する上で大きな課題になってくるように思う。

そもそも日本では、オンラインでのスマートフォン販売があまり普及していない。その大きな理由は、スマートフォンの主な販路が家電量販店などのオープン市場ではなく、携帯電話会社であるためだ。

スマートフォンの販売がオープン市場主体であった中国や欧州などであれば、端末だけを購入する習慣が根付いていることからEコマースの移行もしやすかったといえる。だが日本の場合、携帯各社のショップで通信サービスとセットで端末を購入する習慣が根付いており、消費者側が実店舗を重視する傾向が強いのでEコマースとの相性があまり良くないのだ。

もちろん2019年の電気通信事業法改正で、携帯各社には携帯電話契約と、スマートフォンの販売を完全に分離することが求められているし、現在では携帯各社もオンラインショップでの端末販売に力を入れるなど、環境は変化しつつある。だが消費者に長年身に付いた習慣が急に変わる訳ではなく、オンラインへの移行が容易に進むとは考えにくい。

ただEコマースに馴染みがあり、新しい販売手法も受け入れやすい若い世代であれば、そうしたハードルは乗り越えやすいかもしれない。それだけにPOCOも若い世代に重点を置いて市場開拓する方針を打ち出しているのだが、日本の場合少子高齢化で若い世代ほど人口が少なく、若い世代だけを開拓しても販売を大きくは伸ばせないという問題も抱えている。

それだけに、シャオミの思惑通りPOCOブランドで販路開拓が進められるかは未知数というのが正直な所でもある。2024年5月25日に東京・渋谷にて期間限定で展開している「Xiaomi POP-UP Store」で、Xiaomi・RedmiブランドだけでなくPOCOブランドの製品も直接購入できるようにしたというのも、そうした日本の事情を意識してのものかもしれない。

  • シャオミは2024年5月25日より「渋谷PARCO」で「Xiaomi POP-UP Store」を期間限定で展開。こちらではユーザーの反響を受けてPOCO F6 Proを急遽直接販売することにしたそうだが、スマートフォンのEC販売が馴染んでいない日本だからこその対応ともいえる