楽天モバイルは2023年10月23日、総務省から新しい700MHz帯の免許割り当てを受けた。この周波数帯はいわゆる「プラチナバンド」で楽天モバイルが切望していたもののはずだが、獲得後に楽天モバイル側が喜ぶ様子はあまり見られなかった。一体なぜだろうか。
新たな700MHz帯に申請したのは楽天モバイルのみ
楽天モバイルが割り当てを受けておらず競争上不利だとして、かねてその割り当てを切望していた、1GHz以下の周波数を指すいわゆるプラチナバンド。遠くに飛びやすいことから少ない基地局で広範囲をカバーできるとして、携帯電話会社が最も重要視する周波数帯だが、既に携帯電話をはじめ多くのシステムに割り当てられているため空きがほとんどない。
そこでプラチナバンドの割り当てを巡っては、楽天モバイル側が既存3社のプラチナバンドを割譲して再割り当てるすることを提案、他の3社が猛反発するなど、業界を大きく揺るがす議論が続けられてきた。
だがNTTドコモが、携帯電話向けの700MHz帯と、隣接する地上デジタルテレビ放送などとの干渉を避けるために空けていた周波数帯のうち、干渉の影響が小さい3MHz幅を携帯電話に割り当ててはどうかと提案。検証の末に携帯電話向けの割り当てが可能という判断が下され、総務省は2023年8月29日からその割り当てに向けた申請を受け付けていた。
その割り当てに申し込んだのは楽天モバイルだけだったことから、総務省は楽天モバイルの申請内容を審査し、妥当だとして楽天モバイルへの免許割り当てが決定。2023年10月23日に楽天モバイルの代表取締役 共同CEOである鈴木和洋氏らが総務省を訪れ、鈴木淳司総務大臣から免許が手渡されるに至っている。
これにより楽天モバイルは帯域幅が狭いとはいえ、待望のプラチナバンドの免許を獲得するに至った訳だ。エリア整備が途上で大手3社と比べつながりにくい場所が多い楽天モバイルにとって、遠くに飛びやすく広範囲をカバーしやすいプラチナバンドがプラスに働くことは間違いないだろう。
携帯電話会社にとってプラチナバンドは非常に重要な周波数帯ということもあって、獲得した事業者の喜びは大きなものだ。実際2012年に待望のプラチナバンドを獲得したソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)は、プラチナバンド獲得に際して記者会見を実施。当時の代表取締役社長である孫正義氏が喜びを露わにする様子を見せていた。
それゆえ楽天モバイルも、プラチナバンドの獲得で喜びの声を挙げるかと思われたのだが、免許獲得後の囲み取材に応じた鈴木氏らの表情は硬く、喜びを現す様子を見ることはできなかった。一体なぜだろうか。
厳しい経営状況と狭い周波数帯域に課題あり
その理由はやはり、楽天モバイルの苦しい状況にあるといえよう。楽天モバイルは先行投資による大幅な赤字を抱えており、親会社の楽天グループもその先行投資のために発行した社債の償還に追われているなど、非常に厳しい経営状況にある。
それゆえいまプラチナバンドの免許を獲得しても、すぐ投資はできないというのが正直な所だろう。実際楽天モバイルが総務省に提出した開設計画を見ると、700MHzを活用したサービスの開始時期は令和8年、つまり2026年の3月頃からとされている。
鈴木氏はこの計画が「少し保守的な形」としており、2024年中にはサービスを開始したい意向を示していたが、仮にサービスを開始したとしても、それがどのくらいの規模で展開するのか? という点は明らかにされていない。仮に700MHz帯の活用を前倒ししたとしても、それがごく一部のエリアにとどまる可能性もある。
楽天モバイルとしては当面、プラチナバンドよりむしろ、基地局の整備コストがかからないKDDIとのローミングに重点を置いてコストを抑えたいのではないだろうか。ローミングが利用できる間に現在の「楽天最強プラン」で契約数を増やして危機的状況を乗り越え、再び自社でのエリア整備が求められる2026年に備えたいというのが楽天モバイルの本音といえ、700MHz帯によるサービス開始時期を2026年3月としているのは、KDDIとのローミング契約が2026年9月に切れることを見越したものと見ることができよう。
そしてもう1つ、今回割り当てられた700MHz帯の特性も楽天モバイルを悩ませている要因といえそうだ。先にも触れたが楽天モバイルに割り当てられた700MHz帯の帯域幅は3MHz幅と非常に狭く、LTEで実現できる通信速度もダウンロードで最大30Mbps程度とされており、つながりやすいが大容量通信には適していないという課題がある。
しかもこの帯域は帯域幅が狭いため、現状、複数の周波数帯を束ねて高速化する「キャリアアグリゲーション」という技術が使えないほか、5Gで運用することもできない。その理由は標準化団体の3GPPに規定が存在しないためであり、実現するには3GPPへの働きかけが求められることからある程度時間がかかるだろう。
一方で楽天モバイルは、「楽天最強プラン」でデータ通信の使い放題を前面に打ち出していることから、高速大容量通信に適さない700MHz帯を、データ通信の使い放題を求めるユーザーにフル活用されてしまうと、混雑が発生しやすくなりユーザーの不満を高める結果にもつながりかねない。高速大容量通信のニーズが高まっている現状、狭い700MHz帯をうまく活用するには準備に一定の時間が必要だということも、整備を後ろ倒しする要因にながっているのではないだろうか。
そうした条件を考慮すれば、やはり楽天モバイルのプラチナバンド本格活用はやはり2026年以降と考えられる。ユーザーがプラチナバンドの恩恵を受けるには、当分時間がかかるのではないだろういか。