都市部を中心に、通信品質の著しい低下が指摘されているNTTドコモ。5Gのネットワーク整備に4Gから転用した周波数帯を活用することに消極的で、5Gの面展開が遅れたことが品質低下要因の1つと見る向きが多いが、過去を振り返るとNTTドコモが“つなぎ”の技術に消極的な傾向が見えてくる。一体なぜだろうか。
通信品質低下の問題に新技術で対策
コロナ禍からの人流回復によるトラフィック急増で、都市部を中心に通信品質が著しく低下し、不満の声が急増したNTTドコモ。事態を重く見た同社は、とりわけ通信品質が大きく低下している東京都内の4エリアに向けた通信品質対策に取り組み改善を図ったが、同社の通信品質に不満を挙げる声は他の地域からも聞かれる。
そうしたことからNTTドコモはより抜本的な通信品質対策を進めるべく、2023年10月10日に将来を見据えた全国ネットワークの集中品質対策を、2023年12月までに進めることを明らかにしている。具体的には300億円を先行投資し、トラフィックの増加により今後対策が求められる場所も含めた2,000箇所超のエリアに向けた通信品質対策を進めるほか、都市部を中心とした鉄道動線に向けたトラフィック対策も、既存の基地局を活用しながら進めていく方針だという。
またその対策に関しても、昨今話題の「生成AI」を活用してSNSの声から通信品質対策が必要な場所を特定する、通信容量対策の切り札とされているが従来導入していなかった「MU-MIMO」対応の「Massive MIMO」設備を、小型化・省電力化が進んだことで導入に踏み切るなど、新技術の積極的な活用に力を入れている。
一連の対策によってNTTドコモのネットワーク品質改善が進むことを期待したい所ではある。だがそもそも同社の通信品質低下には、同社の5Gのネットワーク整備戦略が影響しているのではないかという声も少なからず出てきている。
それは、同社が5Gで新たに割り当てられた高い周波数を用いてのネットワーク整備にこだわり、4Gから転用した周波数帯の活用に消極的だったことだ。実際NTTドコモは「瞬速5G」と銘打って、5Gらしい高速大容量通信ができる高い周波数を用いた5Gネットワークを多く設置していることを積極的にアピールする一方、通信速度は4Gと変わらないが周波数が低く広いエリアをカバーするのに適した転用周波数帯をあまり活用しなかったため、面でのエリア展開には他社に大きく水を空けられている。
それゆえNTTドコモは5Gの基地局を密に打つことができておらず、基地局の電波がとどくかどうかというエリアの“端”が生じやすくなっている。エリアの端では通信品質が著しく落ちやすいことから、4Gから転用した帯域を用いて5Gの基地局を密に設置できていないことが、NTTドコモの通信品質低下に大きく影響した要因の1つとされている。
加えてNTTドコモは2022年に総務省が打ち出した「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」によって、2023年度末までに5Gの人口カバー率95%を達成することが求められ、エリアを広げるため急遽4Gから転用した周波数帯を用いる必要に迫られた。その結果当初の整備計画に狂いが生じ、都市部での通信品質対策に遅れが生じたのではないか? との見方も根強い。
3G、4Gでも“つなぎ”を避けてきたNTTドコモ
確かに4Gから転用した周波数帯で5Gのエリアを整備しても、通信速度は4Gと変わらない。それゆえ転用周波数帯の活用は5G向け周波数帯でエリアを整備するための“つなぎ”であり、「なんちゃって5G」などと揶揄されたこともあった。だが結果的には、そのつなぎの技術を積極的に活用したKDDIやソフトバンクの方が人流回復後も通信品質を維持できている。
そして過去を振り返ると通信規格が移行する際には、携帯電話会社の移行負担を減らす狙いもあって、つなぎの技術が登場することが多い。だが競合他社がそれらを導入する中にありながらも、NTTドコモはつなぎの技術を導入せず、新しい規格へと一気に移行を進めようとする傾向が強く見られる。
例えば3GからLTEへ移行する際にも、3Gの通信規格の1つ「W-CDMA」方式を高度化して通信速度を向上させる「DC-HSDPA」や「HSPA+」といった技術が登場していた。そこでコストなどを理由にLTEへすぐ移行するのが難しい通信事業者は、LTEへ移行するまでつなぎの技術を取り入れて通信速度を向上させ、競争力を高める戦略を取っていたのだ。
実際国内でも、W-CDMA方式を採用していた事業者のうちソフトバンクやイー・アクセス(後に買収され現在はソフトバンク)は、LTEの導入前にこれらの技術を積極的に導入し、3Gの高速化を推し進めていた。だがNTTドコモは3GからLTEへの移行を一気に進めており、そうしたつなぎの技術の導入にはむしろ疑問の声を挙げていた印象がある。
またLTEから4G(LTE-Advanced)へ移行する際にも、競合他社は複数の周波数帯を束ねて高速化するLTE-Advancedの要素技術の1つ「キャリアアグリゲーション」を積極的に活用して高速化を推し進めていた。だがNTTドコモだけはLTEで他社のLTE-Advancedと同等の最大通信速度を出せるとしてキャリアアグリゲーションをなかなか取り入れず、「PREMIUM 4G」でLTE-Advancedによるサービスを開始したのは他社から1年程度遅れている。
なぜNTTドコモがつなぎの技術を採用したがらないと言えば、新しい規格のネットワーク整備に加えつなぎの技術にも投資が必要になり、コスト的に無駄が生じてしまうことが理由の1つに挙げられるだろう。だがこれまでの経緯を見るに、NTTドコモはつなぎの技術に批判的な向きを示すことが多い印象が強く、つなぎの技術の導入が技術的に良くないものと捉える文化があるのではないかと筆者は見ている。
だが「瞬速5G」が「なんちゃって5G」に足元をすくわれたように、つなぎの技術を使わないことが結果的に不利益をもたらしていることも確かだ。今後5Gに関しても、「5.5G」と呼ばれる技術が登場するなど6G移行前のつなぎというべき技術が出てくる可能性が十分考えられるだけに、つなぎの技術に対するNTTドコモの向き合い方が今後は大きく問われることになるのではないだろうか。