韓国サムスン電子は2023年8月22日に日本で新製品発表会を実施し、折り畳みスマートフォン「Galaxy Z」シリーズの新機種などの国内販売を発表している。中でもアピールに力が入れられていたのは縦折り型のスマートフォン新機種「Galaxy Z Flip5」なのだが、その理由はどこにあるのだろうか。
折り畳みスマホの中でも“縦折り”のアピールに重点
折り畳みスマートフォンの先駆者として力を入れているサムスン電子だが、2023年も7月26日に新しい折り畳みスマートフォン「Galaxy Z Flip5」「Galaxy Z Fold5」の2機種のグローバル発表を実施している。これら2機種はいずれも縦折り型、横折り型の折り畳みスマートフォンの新機種となり、詳細な情報は既に多くの情報が出ていることからそちらを参照頂きたいのだが、その1カ月後となる2023年8月22日には早くも日本での発売が発表されている。
実際サムスン電子は同日に日本での新製品発表イベントを実施し、両機種の日本市場投入を明らかにしている。販売は両機種ともにNTTドコモとKDDI(au)からとなり、「Galaxy Z Flip4」を販売していた楽天モバイルが外れる形となったが、おおむね順当な販売内容といえるだろう。
ただその発表内容で気になるのが、折り畳みスマートフォンの中でもGalaxy Z Flip5の販売にかなりの比重が置かれていることだ。それは同社が打ち出したプロモーション施策からも見て取ることができる。
サムスン電子は今回の新機種発表に合わせていくつかのプロモーション施策を打ち出しており、その1つが「#Galaxy日本一周」というもの。これは2023年9月から、全国47都道府県で順次実施されるキャラバンイベントなのだが、その体験内容はGalaxy Z Flip5に大きな比重を置いたものとなっている。
そしてもう1つは「Join The Flip Side @シモキタ」というもの。その名前の通り、東京・下北沢の街全体を使ってGalaxy Z Flip5をアピールするキャンペーン施策で、体験コーナーの設置だけでなく屋外広告なども活用して街一体をGalaxy Z Flip5一色に染め上げる大規模な取り組みとなるようだ。
サムスン電子は販売拡大のため大規模なプロモーションを積極展開して世界的にシェアを拡大してきた経緯があり、日本でも2012年にペン入力ができる「Galaxy Note」の販売プロモーションのため、ペンを使ってGalaxy Noteで似顔絵を描く「GALAXY Note Studio」を全国150以上の都市で展開したことがある。それゆえこうした大規模プロモーションはサムスン電子の得意技といえるものなのだが、その対象がGalaxy Z Flip5に絞られていることが気になる人も多いのではないだろうか。
確かにGalaxy Z Flip5は背面のディスプレイが3.4インチに大型化するなど、Galaxy Z Fold5と比べリニューアルが図られている部分が多い。だが同じ折り畳みスマートフォンながら、Galaxy Z Fold5ではなくGalaxy Z Flip5のプロモーションに大きな比重を置くのはなぜなのだろうか。
若い女性の支持を得なければシェア拡大は極めて困難
その理由をひと言で表すならば「iPhone対抗」ということになる。サムスン電子はスマートフォンの世界最大手として知られるが、アップルのiPhoneシリーズが圧倒的なシェアを獲得している日本では長年にわたり苦戦を強いられている。
日本におけるiPhoneの岩盤支持層と言われているのが、トレンドをけん引する立場でもある10~20代の若い女性であり、この層を攻略できなければ日本でのシェア拡大は不可能に等しい。それゆえサムスン電子も若者が集まる東京・原宿にGalaxyシリーズの製品体験施設「Galaxy Studio」を設けたり、韓国の人気ボーカルグループ「BTS」を起用したプロモーションを積極展開したりするなどして若い女性層へのアピールを強化してきた。
だがそれでもなお、日本ではiPhoneに全く歯が立たない状況が続いている。そこで同社が若い女性層からの支持を得て、iPhoneからシェアを奪う武器として力を入れるようになったのがGalaxy Z Flipシリーズなのだ。
サムスン電子はGalaxy Z Flipシリーズのターゲットを若い女性層に定め、コンパクトで特徴的な形状や、若い女性に欠かせないセルフィーの撮影のしやすさなどをアピール。海外では若い女性層から着実に支持を得ている。それだけにサムスン電子は、日本でもGalaxy Z Flipシリーズの販売に力を注ぐことでPhone支持層の乗り換えを促したい狙いがあるといえよう。
ただそのためには、折り畳みスマートフォンを使ったことがない人に対して、その使い勝手を体験してもらう必要がある。そうしたことから背面ディスプレイを大画面化するなどリニューアルを図ったGalaxy Z Fold5の投入を機として、リアルでの体験に重点を置いた大規模なプロモーション施策を実施するに至ったといえそうだ。
とはいえ、iPhoneはデバイスだけでなくOSもアップルが自社開発しており、独自の強力なエコシステムで顧客を囲い込んでいる。それゆえプラットフォームがAndroidに変わるだけで、ユーザーが「友達とエアドロ(AirDrop)できない」などさまざまな不都合が生じることから、iPhoneの岩盤支持層を乗り換えさせるのは容易ではない。
だが日本市場に参入しているスマートフォンメーカーの中で、iPhoneに対抗できる資金力とブランドを持つ企業はごくわずかとなっているのもまた確かだ。サムスン電子が一連の施策でどこまでiPhoneのシェアを削ることができるかは、今後の日本のスマートフォン市場競争を占う上でも重要なポイントになってくるだろう。