これまで小容量・低価格に重点を置いてきた、携帯各社のサブブランドやMVNO。だがここ最近、NTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」に対抗するべく通信量が20GBのプランを拡充するケースが目立っている。なぜ対抗軸がより大容量で値段の高いahamoに変化しているのだろうか。
20GBで通話定額付きの料金プランが急増
菅義偉前政権下で進められた携帯電話料金引き下げ要請以降、大きな注目を集めてきた、データ通信量が少なくてその分料金が安い、低価格の料金プラン。そうした料金プランは元々「格安スマホ」として注目されたMVNOが強みを持つ領域だったが、一連の料金引き下げの影響などによって携帯各社がサブブランドを通じ、各種割引を加えれば月額1,000円を切るような非常に安い料金プランを提供したことで、サービスの拡充が進み競争も激しくなっていた。
だがここ最近、そうした低価格の料金やサービスを売りとしてきたブランドやサービスに異変が起きている。その一端を示しているのが、KDDIのサブブランドである「UQ mobile」が2023年6月1日に開始した新料金プランだ。
UQ mobileは従来、ベースのサービスは同じながらもデータ通信量に応じて「S」「M」「L」という3つのプランを提供する分かりやすい構成だったのだが、新料金プランではその内容を大幅に変更。新たに「コミコミプラン」「トクトクプラン」「ミニミニプラン」という3つのプランを用意し、それぞれに異なる特徴を付与している。
中でも力を入れているのがコミコミプランであり、これは月額3,278円でデータ通信量が20GB、かつ10分間の通話定額が利用できるというもの。他の2つのプランとは違い、家族での契約や固定ブロードバンドなどのセット契約による割引などは一切存在せず、誰が契約しても月額3,278円で利用できる分かりやすさがポイントとなっている。
そして同様のプランは、いくつかのMVNOからも提供が相次いでいる。最近の事例として、2023年6月6日に発表会を実施したH.I.S Mobileの新料金プラン「自由自在スーパープラン」を挙げると、月額2,190円で5Gに対応、かつデータ通信量が20GBで5分間の通話定額が付くという内容になっている。なおこのプランには月額5,990円で50GBの通信量が利用できるプランも用意されているが、主力として打ち出されているのは20GBプランのようだ。
しかもHIS Mobileは、自由自在スーパープランの提供に合わせてモノマネタレントのコロッケさんをアンバサダーに起用している。従来同社はプロモーションに芸能人を起用したことはなかっただけに、新プランへの力の入れ具合を見て取ることができよう。
データ通信量の増加でARPU回復の契機に
これらの料金プランに共通しているのは、「月額料金が2,000~3,000円前後」「通信量が20GB」「通話定額付き」ということ。このことからいずれの料金プランも、NTTドコモの「ahamo」を強く意識していることが分かるだろう。
ahamoは複雑な値引きの仕組みがなく、誰でも月額2,970円で利用できる料金プランであり、データ通信量が20GB、そして5分間の通話定額が付く。オンラインでのサービス利用に慣れている若い世代をターゲットとし、店頭でのサポートコストをカットすることで低価格を実現し、大きな話題となったプランだ。
そして先に触れた競合のプランはいずれもahamoに近い内容で、ahamoへの対抗も明確に打ち出している。ただ先にも触れた通り、サブブランドやMVNOはこれまで、低価格で数GB程度の小容量の領域に力を注いでいただけに、その対抗軸がahamoに変わりつつあることにやや意外な印象も受ける。
その理由として1つに、そもそも動画サービスの利用が増えるなどしてユーザーのデータ通信量が増加傾向にあり、小容量のサービスを利用していた人がより大容量を求める傾向が強まっていることが挙げられる。実際UQ mobileの場合、3年間のうちにデータ通信量は1.8倍に増加していることから、従来より大きな容量の領域で競争力を高めるべくコミコミプランの提供に至ったとしている。
H.I.S Mobileの場合、従来の20GBプランはむしろ利用が減少傾向にあり、ahamoが獲得しているユーザー層の取りこぼしが起きていることを問題視。その魅力を高めるため自由自在スーパープランの提供に至ったとしている。20GB程度の通信量を欲するユーザーが増え、そのニーズに応えることが急務となっていることが、低価格・小容量のサービスに重点を置いてきた企業やブランドの戦略転換へとつながっているようだ。
だがもう1つ、ARPU(1ユーザー当たりの平均売上)を上げたいというのも狙いとしては大きいと考えられる。菅前政権による料金引き下げで小容量・低価格プランが増え乗り換えが増えたことなどで、携帯大手3社は年間で1,000億円前後利益を減らしている状況にあるが、携帯各社は利益回復のためより値段が高い大容量プランの利用拡大を推し進めている。
それは使い放題プランに注力するメインブランドだけでなく、サブブランドでも従来より大容量のプランに乗り換えてもらい、ARPUを向上させることに力を入れるようになってきた。ここ最近の割引キャンペーン施策で、その対象が中容量以上のプランに限られるようになってきたことがその傾向を示している。
MVNOも同様に、菅前政権による料金引き下げ要請以降、競争が激化し月額料金が数百円というレベルにまで落ち込んでいた。それだけに20GBプランの充実を図ることで、通信量増加のトレンドをうまくキャッチしARPUを大幅に向上させたい狙いがあるといえよう。
サブブランドやMVNOにとって収入面でのメリットが非常に大きく、しかも市場のニーズが高まっていることを考えれば、今後20GBプランは今後一層増加し競争も激しくなるものと考えられる。菅前政権による一連の料金引き下げ要請で携帯電話業界は非常に大きな傷を負ったが、20GBプランの拡大はそこから立ち直る1つの契機となるかもしれない。