バルミューダに続いて京セラと、国内スマートフォンメーカーの事業撤退が相次いだ。だが撤退に至らなくてもスマートフォン事業に苦しんでいるのはこれら2社に限らない様子で、日本のスマートフォン市場に氷河期が訪れたことを感じさせる。
新興と老舗が相次いで撤退を表明
2023年5月前半から中盤にかけて企業の決算が相次いだが、スマートフォンという視点でも非常に大きな発表が相次いでいる。その1つが家電メーカーのバルミューダだ。
同社は2021年に「BALMUDA Phone」でスマートフォン市場に参入。バルミューダらしい強いこだわりをハード・ソフト前面に盛り込んだ他にない端末であった一方、そのこだわりゆえに性能とコストのバランスを欠いていたことで多くの批判にさらされるなど、あらゆる側面で注目されるに至っている。
そのバルミューダは2023年5月12日の決算発表直前に、スマートフォン事業からの撤退を発表。BALMUDA Phoneの発表後も次のモデルのスマートフォン開発に取り組んでいたというが、原材料価格の高騰や急速に進んだ円安の影響などにより2022年後半から開発が困難になったとのこと。
加えて別モデルの開発も進めるべく協議や検討を進めていたというが、こちらもやはり円安などの影響を受けてか、条件が整わず開発中止に至ったという。その結果、経営資源を家電事業の強化と新ジャンルの商品開発に集中すべきという判断に至り、携帯電話端末事業の終了に至ったとのこと。同日に実施された決算説明会における代表取締役社長である寺尾玄氏も、「新たなチャレンジがこのような結果となり、大変残念」と無念さをにじませていた。
そしてもう1つ、やはりスマートフォン事業からの撤退を発表したのが、そのバルミューダのスマートフォンの製造を担っていた、携帯電話の老舗メーカーでもある京セラだ。同社も2023年5月16日の決算説明会で、コンシューマー向けスマートフォン事業の終息を打ち出しており、ミリ波を活用した5Gの通信普及に向けたインフラ関連事業へリソースを集中させるとしている。
京セラの場合、スマートフォン事業を終了するのはコンシューマー向けのみで、法人向けの事業は継続するとしている。ただ特定の企業に向けカスタマイズした機器と通信サービス、サービスなどを一体で提供するソリューションを主体にする方針で、端末事業自体の縮小は避けられないだろう。
もっとも京セラはここ数年来、いわゆるマス向けのスマートフォンはほとんど提供しておらず、同社の代名詞にもなっている高耐久端末の「TORQUE」シリーズのほか、シニア向けや子供向け、あるいはフィーチャーフォンなどニッチ市場に的を絞っていた。それゆえ撤退が一般消費者に与える影響は限定的なのだが、裏を返すとそうしたニッチ市場向け端末は元々台数が出るものではなく、携帯電話会社の要請によって開発されることが多いだけに、それを担う国内メーカーが減ってしまったことは将来を考えると大きな不安要素でもある。
国内メーカーだけでない苦境、撤退は今後も続くか
国内メーカーの相次ぐ撤退が、スマートフォン市場に大きな衝撃を与える出来事だったことは確かだが、現在のスマートフォン市場を見るとやむを得ないとも感じてしまう。正直なところ、国内のスマートフォン市場は2023年に入り、ここ最近起きている変化によってメーカーが“総崩れ”といっていい状況にある。
しかもその理由は1つではなく、複合的でいずれも容易に解決が難しいものだ。1つ目は2022年に急速に進んだ円安の影響、2つ目はコロナ禍の半導体不足などによって起きた部材の高騰がまだ収まっていないことで、これらはいずれもスマートフォンの価格高騰に直結している。
そして3つ目は2019年より始まった政府のスマートフォン値引き規制で、2023年にはいわゆる「1円スマホ」も規制される可能性が高い。そして4つ目は、そもそもスマートフォンの進化が停滞し世界的にも買い替え需要が減少していることであり、スマートフォンの買い替えサイクルはこれまで2年だったのが3年に伸び、現在ではさらに長期化しているとさえ言われている。
それゆえ2023年のスマートフォン新機種の動向を見ていると、国内外問わずメーカー各社が非常に苦しんでいる様子がうかがえる。例えばここ数年来、高いコストパフォーマンスを売りとして急成長してきた中国の新興メーカーも、2023年に入るとその勢いが途絶えてしまっており、2022年前半に新機種を相次いで投入し話題となったシャオミも、2023年に投入したのは「Redmi 12C」の1機種のみ。そのRedmi 12Cも値段は安いが性能面では疑問符が付く内容であり、コストパフォーマンスの強みを発揮できなくなっていることを印象付けていた。
また新機種を相次いで投入したソニー、シャープや韓国サムスン電子も、ハイエンドは軒並み20万円に匹敵する、あるいはそれ以上の価格で消費者に手が届かない内容となっている。またソニーの「Xperia 10 V」が、クアルコムの最新ミドルクラス向けチップセット「Snapdragon 6 Gen 1」ではなく、前機種の「Xperia 10 IV」と同じ「Snapdragon 695 5G」を採用したり、ローエンドの「Xperia Ace」シリーズの新機種を投入していなかったりするなど、価格が販売に影響するミドルクラス以下ではコストダウンに苦慮している様子も見て取ることができる。
これだけの状況を見るに、スマートフォン市場がかつてないほど厳しい状況にあり、もはや氷河期に突入したと言ってもおかしくない印象を筆者は受けている。市場の冷え込みが世界シェアが小さく体力のない国内メーカーの撤退を促したことは間違いないが、今後を考えるならば大きな伸びが見込めない日本市場に見切りをつける海外メーカーも出てくる可能性がある。それはユーザーの選択肢を大きく減らすことにもつながってくるだけに、大いに懸念されるところだ。