依然大幅な赤字が続き、厳しい経営状況にある楽天モバイル。2023年の単月黒字化を目指し契約数拡大に向けた手を相次いで打っているが、共通しているのは楽天グループの顧客を活用することである。信頼ある顧客から明確な売上につながる顧客を獲得し、売上を伸ばせるだろうか。
コスト削減と契約増を両立する策とは
携帯電話事業に新規参入したものの、生みの苦しみを味わっている楽天モバイル。2021年に月額0円で利用できる料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を提供したことでARPU(1人当たりの平均売上)が大幅に低迷したのに加え、KDDIに支払うローミング費用を抑えるため基地局を4年前倒しで整備するなどしたことで投資がかさみ、赤字に苦しんでいる状況だ。
実際、親会社の楽天グループが2023年2月14日に発表した通期決算を見ると、楽天モバイルの売上収益は月額0円施策を廃した「Rakuten UN-LIMIT VII」への移行が進んだことで前年度比41.5%増の1,910億円と大幅に伸びた一方、営業利益は先行投資などが響いて前年度比55.5%減の4,593億円と、依然大幅な赤字であることが分かる。
この赤字は楽天グループ全体の経営を苦しめているのは間違いないが、それに加えて楽天モバイルは携帯電話事業への参入当初から2023年の単月黒字化を目指すとしていた。それだけに今年、楽天モバイルは利益を増やして赤字体質を解消することが急務となっているのだ。
もちろんそのための道筋もいくつかは付けられているようだ。インフラ面では4Gの基地局整備を急いだことで人口カバー率98%を達成、今後は整備ペースを抑えられるのに加え、KDDIとのローミングも一層減少することが見込まれている。また郵便局内で展開していた簡易店舗のうちおよそ200店を閉店するなど、コストがかかる実店舗の整理にも踏み切ったことで従来以上のコスト削減が期待できるだろう。
だが業績回復にはそれだけでは足りず、楽天モバイルの通信事業そのものから売上を高めていく必要がある。2022年10月末で月額0円を実現する施策は終了したことから、今後ARPUは確実に高まると考えられる一方、課金をしてくれる契約数は月額0円施策終了の反動で50万以上減少。直近ではやや回復傾向にあるものの、月額0円施策の終了や実店舗の整理などで劇的に契約数を増やす術がなくなってしまったのも確かだ。
そこで楽天モバイルは、契約数の拡大に向け2つの戦略に注力する姿勢を見せている。そこに共通しているのは、いずれも楽天グループが信頼を築いてきた顧客に重点を置いた取り組みであるということだ。
楽天経済圏と取引先の活用で“上客”を増やす
1つは「楽天経済圏」の活用である。つまりは楽天グループのサービスを積極利用する契約者からの口コミで、契約者を増やすことに楽天モバイルは力を入れようとしているのだ。
実際楽天モバイルは、口コミに重点を置いた2023年2月15日より、「楽天モバイル紹介キャンペーン」を実施している。これは楽天モバイルの契約者が、他の人を楽天モバイルに紹介して契約すると、紹介した人1人につき7,000ポイント、紹介された人にも3,000ポイントがプレゼントされるというもので、ポイント付与率もかなり高いことから力の入れ具合が理解できるだろう。
なぜ口コミを重視するのかといえば、そこにはやはりRakuten UN-LIMIT VIの反省があったものと考えられる。Rakuten UN-LIMIT VIを提供していた頃のARPUは500円以下にとどまっており、月額0円で利用する人の割合がかなり高かったものと推測されるが、そうした人達は節約重視の傾向が強く、楽天モバイルの利用だけでなく、楽天グループ側が目論んでいた「楽天市場」「楽天トラベル」など他のサービスの利用も広まらなかったものと考えられる。
そのような節約重視のユーザーをいくら集めても楽天モバイル、ひいては楽天グループの売上拡大にはつながらないことがRakuten UN-LIMIT VIで見えたといえる。そこで楽天グループのサービスを利用する“上客”経由で利用を増やすことで、、楽天モバイルだけでなく楽天グループのサービスの利用にもつなげ“上客”に育てていきたい狙いがあるといえそうだ。
そしてもう1つは楽天グループと取引のある企業の活用であり、その狙いを示しているのが2023年1月30日より提供を開始した「楽天モバイル 法人プラン」だ。このプランはデータ通信量に応じて3つのプランが用意され、いずれも法人向けのRakuten Link「Rakuten Link Office」を用いることで国内通話が無料でかけ放題になる点や、プランに応じて1~2GBの国際ローミングが利用できる点が特徴となっている。
実はこの料金プラン、正式発表に先んじて、楽天市場の加盟店に向けて2023年1月26日に実施された「楽天新春カンファレンス2023」で公表されている。そうした点からも、楽天市場などでの取引先企業に法人向けプランを販売し、楽天モバイルの契約数を大きく伸ばしたい狙いがある様子を見て取ることができよう。
ただ法人向けの料金プランは相対契約、つまり導入数や交渉に応じて料金が決まる契約であることが多く、既に多くの企業が携帯大手3社と相対契約を結んでいることを考えると、楽天モバイルがそこに割って入り込むのは難しいように思える。だが2023年2月22日に実施された楽天モバイルのパートナー向けイベント「Rakuten Mobile Partner Conference」で、楽天グループの専務執行役員である鈴木和洋氏によると相対契約はいくつかの課題を抱えているという。
主な課題の1つは、契約する回線数が少ないと料金が高くなってしまい小口の契約には向かないこだが。鈴木氏によると楽天モバイルの法人プランは1台でも月額1,980円からと安く利用できるという。そしてもう1つの課題は、交渉や契約に時間がかかり使いたい時にすぐ利用できないことだが、鈴木氏は楽天モバイルの法人プランであれば、30回線以下ならオンラインで即時契約ができるなどスピーディーな対応が可能だとしている。
携帯電話のようなインフラ事業は顧客と長年培った信頼が重視される傾向にあり、その分他社への乗り換えが進みづらいものでもある。そうした意味でも新規参入の楽天モバイルは不利な立場にあるのだが、一方で同社は楽天グループのサービスで信頼を培ってきた個人・法人の顧客を多く持つだけに、そこに重きを置いて契約を増やすという策が理にかなっているのは確かだろう。
ただそれで拡大できる規模には限界があるのも確かで、どこかのタイミングで再び大規模に顧客獲得を進める策を打つ必要が出てくる。早期に反転攻勢に転じるためにも、信頼を培った顧客から“上客”を育て上げて売上を高められるかが、同社には強く求められているといえそうだ。