ソフトバンクが「神ジューデン」としてアピールする「Xiaomi 12T Pro」など、従来より非常に速い急速充電の技術開発に力を入れているのが中国メーカーだ。だが一方で、中国外のメーカーはそうした急速充電技術の競争から距離を置いているように見える。急速充電を巡り中国内外のメーカー間で大きな温度差が出ているのはなぜだろうか。

2億画素カメラより急速充電を取ったソフトバンク

スマートフォン新機種の発表が落ち着く年末に、あえて新機種を発表したのがソフトバンクと中国のシャオミである。両社は2022年12月8日、シャオミのスマートフォン「Xiaomi 12T Pro」を携帯電話会社(MVNO除く)でソフトバンクが独占販売すると発表したのだ。

Xiaomi 12T Proは、チップセットにクアルコム製のハイエンド向けとなる「Snapdragon 8+ Gen1」を搭載し、さらに国内向けに投入されるスマートフォンとして初めて、2億画素のイメージセンサーを採用したカメラを搭載するなど、非常に高い性能を誇るスマートフォンだ。だがソフトバンクがXiaomi 12T Proを販売するに当たって打ち出したアピールポイントは、そのいずれでもない点に意外性があった。

  • 「神ジューデン」に力を注ぐのが中国メーカーに限定されている理由

    ソフトバンクが携帯4社の中で独占販売を打ち出したシャオミの「Xiaomi 12T Pro」。2億画素のイメージセンサーを採用したカメラを搭載するなど高い性能を誇っている

というのもソフトバンクは、Xiaomi 12T Proが備えるもう1つの特徴である、19分でフル充電できるという急速充電機能に着目。「神ジューデン」というキャッチフレーズを付けて有名俳優を起用したテレビCMまで展開するなど、急速充電に特化したアピールを実施しているのだ。

  • ソフトバンクはXiaomi 12T Proのアピールポイントを、カメラやチップセットではなく、19分でフル充電できる急速充電に絞り「神ジューデン」としてプロモーションをかけている

確かに、Xiaomi 12T Proは専用の120W対応充電器を用いることにより、驚異的なスピードで急速充電できる仕組みを備えている。だがその特徴は、2021年に日本でも発売された前機種「Xiaomi 11T Pro」にもあったもので、スマートフォンを知っている人ならば特段珍しい機能という訳ではない。

とはいえXiaomi 11T Proは規模が小さいオープン市場向けにしか販売されていないし、またこれだけの急速充電を実現するスマートフォンは、携帯4社から販売されたこともない。そうしたことからソフトバンク利用者にとっては急速充電が最もインパクトのある機能と判断し、このようなアピールを実施するに至ったといえるだろう。

中国で過熱する急速充電だが汎用性に課題

確かにXiaomi 12T Proのように100Wを超える超高速の急速充電機能は、国内で販売されているスマートフォンでは見かけないものだ。だがシャオミのお膝元でもある中国では、事情がかなり違っている。

というのもシャオミだけでなく、オッポやvivo(ビボ)といった中国のスマートフォンメーカーの多くが急速充電技術でしのぎを削っており、超高速の急速充電に対応したスマートフォンが増えているのだ。実際、これらの企業は既に200Wを超える急速充電技術を開発しており、ビボの「iQOO 10 Pro」など実際の製品に搭載されているケースも出てきている。

  • 2022年7月に発表されたビボの「iQOO 10 Pro」(日本未発売)を皮切りに、中国メーカーからは200Wの急速充電に対応したスマートフォンも出てきている。画像は同社のプレスリリースより

なぜ中国でこれほど急速充電開発への注力が進んだのかといえば、かつてオッポが独自の急速充電技術「VOOC」を開発し、5分間の充電で2時間の通話ができることをアピールしたスマートフォンを投入して市場で躍進する契機をつかむなど、急速充電が中国などで大きな支持を得たことが大きいといえる。それを契機として各社が独自の急速充電技術開発に力を入れ、それが自社スマートフォンのアピールポイントとなって販売拡大につながったことが一層力を入れる要因になったといえる。

  • 2016年にオッポが中国などで発売し、ヒットモデルとなった「R9」。独自の急速充電技術「VOOC」に対応し、5分間の充電で2時間の通話ができることが人気を博す要因となったようだ

ただ一方で、急速充電技術は各社の独自開発で、標準化がなされている訳ではないことから、メーカーや機種を変えれば急速充電用の機器やケーブルも買い替える必要がある。それゆえ各社は専用の急速充電器を標準付属して消費者の負担を減らす対応を進めているのに加え、中国国内のメーカーによる急速充電技術を標準化する動きなども出てきているようだが、少なくとも現時点では各社の超高速の急速充電技術が汎用性のあるものではないことは確かだ。

そしてそのことが、中国外のメーカーが超高速の急速充電開発から距離を取っている要因ともいえるだろう。実際、中国外のメーカーの急速充電は、どちらかといえば充電に用いるUSBの標準化団体である「USB-IF」での技術標準化と、そちらで標準化された技術の採用を重視する傾向にあり、独自の技術開発に力を入れる様子は見られない。

それに加えて、電力の大きい急速充電は安全性の担保が難しくなってくるなどの課題があることを考えると、超高速の急速充電技術が中国外のメーカーに広がる可能性は今の所低い。だからこそソフトバンクは、Xiaomi 12T Proの急速充電に重点を置く方針を打ち出したともいえるのだが、追随するメーカーが増えなければその特徴がユーザーにも響きにくいというのが正直な所でもあり、「神ジューデン」のラインアップ拡充が急がれる所でもある。