NTTドコモは2022年10月6日に、2022~2023年冬春モデルの新製品を発表した。その中にはグーグルが発表した新スマートフォン「Pixel 7」シリーズが含まれていない一方、環境への配慮を前面に打ち出した機種を投入したり、5G対応のタブレットを投入したりするなど、ニッチな需要を満たすモデルに重点を置く様子を見て取ることができる。王道のスマートフォン主体だった携帯電話会社の端末戦略にも大きな変化が訪れているようだ。
「環境」と「5G」に注力した新端末戦略
スマートフォン新製品発表の主導権が携帯電話会社からメーカーに移って久しいが、それでも唯一、携帯電話会社として新製品のラインアップを発表しているのがNTTドコモだ。実際同社は2022年10月6日、2022年から2023年にかけての冬春商戦に向けた新製品ラインアップを発表、メディア向けに説明会も実施している。
それらのラインアップを見ると、スマートフォンは既にメーカー側から発表されたものが大半を占めているため新規性は薄い。そうしたこともあってかNTTドコモは独自性を打ち出す新たな取り組みも見せている。
その1つが、唯一のNTTドコモオリジナルとなるスマートフォン「arrows N F-51C」だ。これはミドルクラスのスタンダードなスマートフォンなのだが、本体にリサイクル素材を67%使用、さらに国内での製造工程では再生可能エネルギーを使用するなど、環境への配慮を強く打ち出しているのがポイントとなっている。
NTTドコモは2030年までに、自社で排出する温室効果ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言を2021年に発表しており、電力サービス「ドコモでんき」にも再生可能エネルギーを活用した「ドコモでんき Green」というプランを設けるなど、環境への配慮に力を入れている。arrows Nの投入はスマートフォンのラインアップを増やすだけでなく、そうした環境へ配慮する姿勢を一層強く打ち出す狙いも大きいといえそうだ。
そしてもう1つ、今回の新製品で同社が注力しているのがスマートフォン以外の5G対応デバイスだ。スマートフォンは既に5G対応が当たり前となっているが、それ以外のデバイス、とりわけタブレットに関しては5Gに対応するものの選択肢がまだ少ないのが現状だ。
そこで今回、NTTドコモは、画面サイズが約10.1インチの「dtab d-51C」と、約8.4インチの「dtab Compact d-52C」という2機種の5G対応タブレットを用意。それに加えて5G対応のWi-Fiルーターや「home 5G」専用の据え置き型端末など、5G対応端末のバリエーションを広げる策に出ている。
ニッチにこそ求められる携帯電話会社の力
なぜNTTドコモが消費者の関心が高い王道のスマートフォンより、ニッチな需要を満たすデバイスに注力しているのかといえば、やはりメーカーとの関係が大きく変わっているからだろう。スマートフォンは開発にかかるコストが大幅に高まっているのに加え、総務省が携帯電話会社の強い立場を生かしてメーカー側へ圧力をかけることを強く警戒していることもあって、以前のように携帯電話会社が端末の仕様にまで大きく関与するのは難しくなっている。
それゆえ販売数が多いスマートフォンはメーカー主導で提供されるケースが増え、携帯電話会社間の違いが少なくなったことから明確な差異化にはつながらなくなってきている。最近ではサムスン電子が楽天モバイルに端末供給を本格化するなど、メーカー側が複数の携帯電話会社に端末を供給する動きが加速しているだけになおさらだ。
なのであれば王道のスマートフォンはメーカーに任せ、メーカー側の努力だけでは浸透が進まないデバイスに積極関与して数を増やし、「5G」「環境」など自社の戦略を浸透させるのがNTTドコモの狙いと言えそうだ。実際タブレットなどは、最近でこそやや盛り返してきているとはいえ、スマートフォン以上に低価格化が著しいことから積極的に取り組むメーカー自体が減少しているだけに、5G対応に向けては携帯電話会社側の関与が必要だったと見ることができよう。
また環境への配慮などに関しても、最近ではサムスン電子のハイエンドモデルやシャープの「AQUOS wish」などメーカー側も同様の取り組みを打ち出してはいるものの、それが必ずしもアピールポイントの中心となっている訳ではない。それだけに、NTTドコモの姿勢を明確に示す上でもより踏み込んだ独自モデルを開発するに至ったといえそうだ。
その一方でNTTドコモは、2022年10月6日に発表されたグーグルの新スマートフォン「Pixel 7」シリーズの販売を今回も見送っている。PixelシリーズがNTTドコモの5G主要周波数帯である4.5GHz帯に対応していないことが大きな理由と見られているが、裏を返せばPixelシリーズは他社も販売しているため独自性が薄く、グーグルに踏み込んだ措置を求めてまで調達に動く必要はないとNTTドコモが判断している、と見ることもできよう。
タブレットやデータ通信だけでなく、シニアや子供向け端末などニッチながら確実なニーズがある端末は存在する一方、そうした端末は低価格や独自のノウハウが求められることから積極的に開発するメーカーも多いとは言えない。ゆえにそうした部分にこそ幅広い顧客と企業体力を持つ携帯電話会社の力が不可欠といえるだろうし、携帯各社の戦略全体を見通す上でも重要なポイントになってくるといえそうだ。