総務省でいま進められている、楽天モバイルへのプラチナバンド割り当てに関する議論。楽天モバイルが1年以内の再割り当てを要求する一方、他の3社は再割り当てに10年近く時間がかかるとするなど、両者の隔たりは依然として大きい。電波の再割り当てを可能にする電波法の改正がなされる2022年10月1日までに、議論は収束するのだろうか。
非常に深い楽天モバイルと大手3社との溝
新規参入の楽天モバイルが、現在経営の最重要課題として積極的な取り組みを進めているのが、1GHz以下のいわゆるプラチナバンドの割り当てだ。プラチナバンドは障害物に強く広範囲をカバーするのに適しているとされ、携帯電話会社にとって最も重要な周波数帯となっているが、楽天モバイルが参入を打ち出した時点ではそのプラチナバンドに空きがなかったため、現時点では楽天モバイルだけがプラチナバンドの免許割り当てを受けていない。
だがその楽天モバイルに、プラチナバンド獲得の機運が高まったのが電波法改正である。総務省は電波利用効率を高めるため、携帯電話各社に割り当てられている周波数帯の再割り当てを可能にするよう電波法を改正する議論を進め、結果2022年10月1日にはその改正電波法が施行される予定となっている。
この法改正によって、ある会社が免許を持つ周波数免許を、他の会社が「より有効活用できる」と競願することで、審査の末に免許を奪うこともできるようになった。そこでサービス開始以降エリア整備に苦しんできた楽天モバイルは、エリア拡大が容易になるプラチナバンドの再割り当てを一層強く求めるようになったのである。
そのプラチナバンド再割り当てに関する議論は、現在総務省の有識者会議「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」で進められている。従来この会議は非公開で実施されており、第10回と第11回は公開形式で実施されていたことから筆者もその内容を聞いてみたのだが、“奪う”側の楽天モバイルと、プラチナバンドを保有しており“奪われる”側の大手3社とでは意見の隔たりが非常に大きく、議論が完全に平行線をたどっているようだ。
とりわけ両社の意見に食い違いが見られるのは、再割り当てがなされた際の移行にかかる時間と費用の負担に関してである。楽天モバイルは現状、携帯3社が持つプラチナバンドのうち上りと下りで合わせて15MHz×2幅ずつ割り当てられている800MHz~900MHzの帯域に対して、そのうち3社から5MHz×2幅ずつ均等に再割り当てしてもらい、15MHz×2幅を得ることを求めているのだが、そこで問題となるのが機器の変更や導入に関してである。
仮に再割り当てが実施された場合、3社は利用できる周波数の幅が変わってしまうのだが、そのことで影響が出てくるのが、電波を増幅して室内の奥などより遠くに電波を届ける「レピーター」である。現状のレピーターを使い続けると楽天モバイルに再割り当てした分の電波も増幅してしまい、これは電波法違反になってしまうことから全て交換する必要がある。
そしてもう1つ、分割した周波数は隣接していることから電波干渉が起きて通信品質が低下してしまう可能性があり、それを避けるためには基地局に受信フィルタを導入する必要も出てくる。この2つの機器の導入・変更を巡って、楽天モバイルと他の3社で真っ向から意見が対立しているのだ。
実際楽天モバイルは、レピーターの交換にかかる期間は半年程度と見積もる一方、他の3社は6~10年と、大幅に時間がかかるとの認識を示している。また受信フィルタに関しても、楽天モバイルが「必要ない」とする一方、3社は「必要」と回答。その分の時間とコストがかかるとしている。
加えて再割り当てにかかる移行費用についても、楽天モバイルは改正電波法で、競願により「電波利用効率が悪い」と判断され、免許が奪われた側が原状回復するよう定めてられていることから費用負担は「しない」とする一方、3社は積極活用しているプラチナバンドを縮小するのだから、奪った側が費用負担すべきと主張しており、やはり隔たりは大きい。
期限内にまとまらなければ更なる混乱も
そうした状況に苛立ちを見せているのが楽天モバイルだ。とりわけ第10回会合では、同社の代表取締役社長の矢澤俊介氏が強い口調で他社を批判する場面が多く見られ、平行線をたどる議論に苛立ちを隠せない印象を受けた。
ただ2度の会合の内容を見る限り、プラチナバンドを持たない楽天モバイルが議論上優位な立場にあるのかというと必ずしもそうではなく、提出する資料や回答内容について有識者から批判を受ける場面も少なからずあった。例えば楽天モバイルは、利用者の料金が低廉化することが電波の有効利用にもつながると主張しているが、ある有識者からは料金と電波の有効利用は直接関係がないと疑問を呈される場面も見られた。
なぜここまで議論がまとまらないのかと考えると、そもそもプラチナバンドは有効活用されていないのか? という点に行き着く。今回の電波法改正は電波の有効利用のため、利用効率が悪い電波の免許を再割り当てできるようにすることが目的であるはずなのだが、現在の議論の主眼はなぜか、最も有効活用されているであろうプラチナバンドを再割り当てすることに置かれてしまっている。
それはもちろん、楽天モバイルがプラチナバンドを持っておらず再割り当てを強く要望しているからこそなのだが、他の3社にしてみれば積極活用しているプラチナバンドの割り当てが減ることは、既存顧客に甚大な影響を与えることにもつながってしまうだけに妥協はできないはずだ。
それゆえ利害のある事業者間で議論がまとまるとは到底考えにくいのだが、先にも触れた通り電波法の改正は2022年10月1日なので、期限までには何らかの結論を出す必要があるだろう。楽天モバイルは特定の1社に対してプラチナバンドを奪うよう競願することも視野に入れているとしているだけに、もし結論を出せなければ業界で大きな混乱が発生することは避けられない。
またもう1つ、総務省がある意味、今回の法改正と再割り当ての仕組みによって、ある意味プラチナバンドの割り当てを4社に委ねてしまったことも気になる。後発の事業者が周波数割り当てで不利だというのは以前から分かっていたことであるし、元々は新規参入だったソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)が、以前保有していなかったプラチナバンドの免許割り当てを声高に訴え続けていたことを考えれば、携帯電話事業におけるプラチナバンドの重要性は重々理解していたはずだ。
それだけに総務省が新規事業者の参入を促進するのであれば、後発事業者が不利にならず、しかも既存事業者の顧客にも大きな影響を与えない形で、後発事業者にプラチナバンドの免許を確実に割り当てられる仕組みを考える必要があったのではないだろうか。5G、6G時代を迎えればモバイル通信が社会全体に与える影響は一層大きくなるだけに、総務省は携帯各社に対するプラチナバンドの確保に、より積極的に動く必要があるのではないかと筆者は感じている。