NTTドコモは2022年3月11日、5Gのエリア拡大のため4Gの周波数帯を5Gに転用することを明らかにした。これまで5G向けに割り当てられた周波数帯のみを使ってエリア整備を進めていた同社が、このタイミングで4Gの転用に乗り出したのには理由があるのだろうか。
700MHz帯や3.5GHz帯などを5Gに転用
2021年の新政権移行によって携帯料金引き下げ競争がひと段落したことで、携帯各社の競争軸は5Gのエリア整備へと移ってきている。だがその5Gエリア整備計画に関しては、携帯電話会社で方針に大きな違いがあった。
それは4G周波数帯の活用に関してである。4Gで使っている周波数帯は、1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」を始めとして低く遠くに飛びやすい周波数帯が多く、広範囲をカバーするのに適している。だが一方で、5G向けに割り当てられた高い周波数帯と比べると帯域幅が狭く、高速大容量通信には適していない。
そうしたことからこれまで、NTTドコモは高速大容量通信を重視し、5G向けに割り当てられた3.7GHz帯や4.5GHz帯のみを用いて5Gのエリア整備を進めてきた。一方でKDDIとソフトバンクは5Gのエリアを早期に広げることを重視し、早い段階から4G向け周波数帯の一部を5G向けに転用してエリア整備を進めている。
それゆえKDDIは「2023年度の早い時期」、ソフトバンクは「2022年春」と、比較的近い時期に人口カバー率90%を達成するとしており、整備スピードは早い。だがNTTドコモは広範囲を整備するのに不向きな帯域だけを用いていることもあって、2021年度末時点の人口カバー率は55%と、2社より低くなっている。
だがここにきて、そのNTTドコモが大きな動きを見せている。それは2022年3月11日、5Gのエリア展開を加速するべく4G・LTEに使用している周波数帯を5Gに転用すると発表したことだ。具体的には2022年春より、同社が免許を持つ700MHz帯、3.4GHz帯、3.5GHz帯を5G向けに転用し、従来以上にエリア整備を加速する方針のようだ。
3.5GHz帯は2014年、3.4GHz帯は2018年と比較的割り当て時期が遅く、また700MHz帯は地上波テレビと帯域が近く一部のテレビ用ブースターに影響を与えるため、その対策が必要なことから本格利用が遅れていたことから転用しやすい帯域でもあった。それゆえKDDIやソフトバンクも、現在はこれらのうちいくつかの帯域を5G向けに転用するケースが多いようで、NTTドコモもその例にならったといえる。
「デジタル田園都市構想」とSA運用への移行が影響か
ただ先にも触れた通り、NTTドコモはこれまで5Gの特徴の1つでもある高速大容量通信をフルに生かすべく、5G向けの周波数帯のみにこだわって整備を進めてきた。ここにきてその方針を転換し、4G向けの周波数帯を活用するに至ったのにはどのような理由があるのだろうか。
考えられる理由の1つは、岸田文雄首相が打ち出す「デジタル田園都市構想」の影響である。これは岸田氏が首相就任直後から打ち出したもので、都市部とのインフラ格差を埋めるべく地方でのデジタルインフラ整備に重点的に取り組むというもの。実際その影響を強く受ける形で、2021年12月28日には総務省から携帯4社に対して地方での5Gの基地局整備を加速するよう要請を実施している。
そうしたことから5G向け周波数帯にこだわりエリア整備が遅かったNTTドコモも、地方でのエリアをいち早く拡大する必要が出てきた訳だ。実際、総務省から要請を受けた2021年12月28日には、総務省の発表からNTTドコモが4G・LTE向け周波数帯の一部を5Gに転用することが明らかにされており、今回の発表はそれが具体化したものといえるだろう。
そしてもう1つ、考えられるのはスタンドアローン(SA)運用への移行の影響だ。現在の5Gは4Gと一体で運用するノンスタンドアローン(NSA)運用だが、NSA運用下では「低遅延」「多数同時接続」など5Gの特徴をフルに生かすことはできないので、携帯各社は2021年後半より、5Gのみでネットワークを運用するSA運用への移行を進めている。
そしてNTTドコモは、2022年夏よりコンシューマー向けの5GサービスもSA運用に移行していくことを打ち出しているのだが、実は現状、SA運用に移行するとNSA運用時より通信速度が遅くなるという問題を抱えているのだ。NSA運用時は5Gと4Gの周波数帯を束ねて高速化できたのだが、SA運用時は5Gの周波数帯のみで通信する必要があるため、4Gの周波数帯を束ねることができなくなり通信速度が落ちてしまうのだ。
それゆえNTTドコモが4Gの周波数帯転用に踏み切ったのには、SA運用に移行しても通信速度を高速にできるよう、5Gで束ねられる周波数帯を増やす狙いもあると考えられる。とりわけコンシューマー向けの通信サービスでは高速大容量通信が求められるだけに、SA運用に移行して顧客の体験価値を損ねないよう、転用を進めるに至ったといえそうだ。
ただどのような理由があるにせよ、最大手のNTTドコモが4G周波数帯の5G転用を打ち出したことは、いよいよ4Gから5Gへと世代の移行が本格的に進む環境が整うことにもつながってくる。既にスマートフォン新機種の大半は5G対応となっているだけに、4G周波数帯の転用とSA運用への移行でネットワーク面でも5Gへの移行が進み、5Gを活用した新しいサービスが早期に広まることを期待したい。