携帯料金引き下げによる収入の減少を、楽天モバイルからのローミング収入によって補っているKDDI。だが楽天モバイルはローミングの終了に向けた動きを加速していることから、今後はローミング収入の大幅な減少が見込まれている。好調なKDDIの業績にマイナスの影響を与えないのだろうか。
業績悪化の楽天モバイルが急ぐローミング終了
KDDIは2022年1月28日に、2022年3月期第3四半期の決算を発表。売上高が前年同期比2.3%増の4兆138億円、営業利益は前年同期比0.4%増の8,746億円と、政府要請による携帯料金引き下げの影響を強く受けて減益となった前四半期から、再び増益に転じ好調な決算となったようだ。
その好調を支えたのは、ここ最近KDDIが力を入れている金融や電力などの「ライフデザイン領域」や、企業のデジタル化需要を獲得して伸びている「ビジネスセグメント」の好調が挙げられる。だが通信事業に関して言えば、より大きく貢献しているのは「ローミング収入」であろう。
KDDIは新規参入の楽天モバイルとローミング契約を結んでおり、楽天モバイルのネットワーク整備が進むまでの間、楽天モバイルのエリア整備が進んでいない地域ではKDDIのネットワークにローミングすることでそれを補っている。それゆえ楽天モバイルは、ローミングエリアで利用された分の通信料金をKDDIに支払う必要があり、それがここ最近、KDDIにとって大きな収入源の1つとなっている。
実際今回の決算を見ると、「au」「UQ mobile」「povo」といったKDDIの通信サービスによる「マルチブランド通信ARPU収入」は料金引き下げの影響が直撃して前年同期比564億円もの減少となっているが、一方で楽天モバイルからのローミング収入、そして「BIGLOBEモバイル」「J:COM MOBIL」といったグループ会社のMVNOによる収入を合わせた額は、前年同期比で634億円増加。双方を合わせた「モバイル通信料収入」は前年同期比で70億円増えており、ローミング収入が業績に大きく影響していることが分かる。
そしてローミング収入増には、楽天モバイルの契約数自体が増えていることも影響していると考えられる。実際楽天モバイル(MVNOを除く)の契約数は、1GB以下であれば月額0円で利用できる料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」の影響もあって2021年9月時点で411万に達しており、楽天モバイル自信も契約拡大に力を入れていることからその後も契約数が伸びている可能性が高い。
ただローミング収入はKDDIの業績を向上させる一方、それを支払う楽天モバイル側にとっては業績悪化の大きな要因となっている。楽天グループの2021年度第3四半期決算におけるモバイルセグメントの業績を見ると、営業損失が1,052億円と、前年同期比で438億円拡大しているようだ。
そうしたことから楽天モバイルはローミングの支出を減らすべく、ネットワーク整備の前倒しに力を入れており、2021年10月からは39の都道府県の一部地域で、順次KDDIとのローミングを終了している。エリアの拡大とローミングの終了が順調に進めば、2022年度には楽天モバイルが支払うローミング費用が大幅に減ることとなるだろう。
それはKDDIにとって、今後楽天モバイルからのローミング収入が減ることにもつながってくる。その一方で料金引き下げの影響は今後も続くことから、業績悪化は避けられないように見える。
3G終了がローミング収入減を補うが、新たな策も必要に
だがKDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、決算発表と同日に実施された決算会見において、今後ローミング収入が減少しても業績に大きな影響は出ないとの認識を示している。その理由は3Gのサービス終了にあるようだ。
古い通信規格である3Gは機器の償却や運用などで大きなコストがかかっているほか、3G利用者を4Gや5Gに移行させる“巻取り”にも多額のコストがかかっている。だがKDDIは他社に先駆けて2022年3月末で3Gのサービスを終了させる予定で、早々に3Gにかかるコストを減らせることから、ローミング収入が減少しても3Gサービス終了による経営負担減でそれを十分補えると見ているようだ。
ただローミング収入減を補ってもなお、料金引き下げの影響は今後も続くことに変わりはない。高橋氏はその減収影響が当初予測の年間600~700億円から「もう少し膨らんできている」と話しており、料金引き下げが業績に与える影響は想定以上に大きくなっている様子もうかがわせる。
そこで今後重要になってくるのはローミング収入に続く、新たな通信料収入増に向けた施策であろう。KDDIはその取り組みの1つとしてOTT(インターネットを通じてコンテンツなどを提供するサービス)プレーヤーとの連携による使い放題プランの強化を挙げており、決算発表の2日前となる2022年1月26日にはスポーツ動画配信サービスの「DAZN」とのセットプラン「使い放題MAX 5G/4G DAZNパック」の提供に加え、「使い放題MAX 5G ALL STARパック」にも料金据え置きのまま、DAZNなど3つのサービスを追加することを発表している。
OTTとの連携でKDDIが狙うのは通信ARPU(ユーザー1人当たりの平均売上金額)の向上だ。動画や音楽、ゲームなどOTTプレーヤーの大容量通信を必要とするサービスを積極的に使ってもらい、データ通信の利用を増やして高額な使い放題プランの契約を増やすことにより、ARPUを伸ばして収入増につなげようとしている訳だ。
従来より高速通信ができる5Gのネットワークが急速に広がるなど、モバイルでリッチなコンテンツを利用しやすい環境は整ってきているだけに、本来であれば現在は、そうしたサービスが利用しやすい使い放題プランの利用が大きく伸びる時期のはずだ。にもかかわらず政府による料金引き下げ要請以降、むしろ小容量で低価格の料金プランに注目が集まっているのが現状で、それが携帯各社の業績を苦しめる要因となっている。
それだけにKDDI、ひいては携帯各社の業績回復に向けては、モバイルで大容量通信をすることの必然性を高め、消費者に使い放題プランを契約することが“当然”と思わせる空気感を醸成していくことが必要になってくるだろう。