ソフトバンクは2021年6月に「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立、2021年11月2日には次世代電池の開発に向けた新技術の実証に成功したことを発表している。携帯電話会社が電池の開発に力を入れるのには疑問も湧くところだが、そこには携帯電話業界が今後直面する課題が影響しているようだ。

大容量の次世代電池開発に向けた研究成果を公表

2021年4月にソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOが、営業畑の宮内謙氏から技術畑の宮川潤一氏に交代。それ以降、同社は宮川氏が力を入れている技術開発に関する取り組みを積極的に打ち出すようになってきた。

その1つが電池に関する取り組みである。同社は2021年6月に、次世代電池の評価や検証を実施する「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立。さらに2021年11月2日には、次世代電池に関する新技術の実証に成功したことを発表している。

  • ソフトバンクは2021年6月に、エスペックという会社の施設内に「ソフトバンク次世代電池Lab.」を改設。次世代電池の研究開発に向けた評価や検証などを実施しているという

    ソフトバンクは2021年6月に、エスペックという会社の施設内に「ソフトバンク次世代電池Lab.」を改設。次世代電池の研究開発に向けた評価や検証などを実施しているという

同日には記者向けにソフトバンク次世代電池Lab.の見学会が実施され、電池の高密度化に向けた技術開発の成果として4つの技術を新たに打ち出している。1つは東京工業大学と住友化学と共同で開発した全固体電池用正極材料だ。

正極とは電池のプラス極のことだが、その材料をリチウム過剰系正極材料と固体電解質を組み合わせたものにすることにより、従来よりはるかに大きな容量を実現できることを確認できたという。

  • ソフトバンクは次世代電池開発に向けた4つの研究成果を発表。いずれも電池の大容量化に向けた技術となる

2つ目は慶應義塾大学との共同研究による「MIによる有機正極材料の性能モデルの開発」。有機材料を用いて正極材料を開発する際、電池に適した素材を探すには10の60乗もの種類の素材を調査しなければいけないというが、機械学習を活用して材料を探すMI(マテリアルズ・インフォマティクス)という手法を用いて予測するというモデルを確立、一定の成果を生み出せたという。

3つ目はEnpower Greentechとの共同研究による、質量エネルギー密度520Wh/kgという非常に大きな容量のセルを試作したこと。以前にも両社は450wh/kg級のセルの実証を成功させているが、その容量を大きく上回るセルの試作と実証ができたことで、ソフトバンクが目指す600~1000wh/kgというセル容量の、1つ手前の段階の容量を実現する目途が見えてきたという。

そして4つ目は、軽量集電体の1つとなる次世代樹脂箔を開発したこと。集電体は電池に蓄えられた電気を取り出す端子のことを指すが、既存の負極用集電体を、新たに開発したより軽い樹脂膜に置き換えることで、電池の容量アップが見込めるとのことだ。

  • 研究成果の1つとなる次世代樹脂箔(上)。電池の化学反応に寄与しない部分の材料を見直し、軽量かつ柔軟な素材を実現したとのことだ

通信の高度化に伴って重要性が高まる電力

電池は携帯電話業界でもスマートフォンなどで用いられている重要な存在なのだが、その素材に関する研究は通信技術と直接関係ないように見える。なのであればなぜ、通信会社であるソフトバンクが電池の研究に取り組んでいるのか? というのは多くの人が疑問を持つところだろう。

そもそもソフトバンクがソフトバンク次世代電池Lab.を立ち上げたのには、今後のデバイスの変化を見据えたものであるという。5G、6Gが広く普及する時代には、それらを活用し従来にはない機能などを実現する新しいデバイスの登場が見込まれているが、それはIoTのように小さなデバイスだけとは限らず、人が乗るような大きなものにまで広がると見込まれている。

それらを動かすためにはより大容量の電池が必要なことから、ソフトバンクは1回の充電で長時間利用できる「高密度」に重点を置いた電池の研究開発を進めているという。とりわけソフトバンクは、成層圏を無人で飛行し、地上に電波を飛ばしてエリア化するHAPS(High Altitude Platform Station)の実用化に向けた技術開発を進めていることから、大容量に重点を置いた次世代電池の研究は、今後の通信に欠かせないHAPSのような大型機器の利活用を見越した取り組みと見ることができよう。

  • ソフトバンクは高密度で大容量の電池開発に力を入れ、HAPSなどより従来より大型の機器を動かすのに必要な電力を賄える仕組み作りなどに力を入れていきたいようだ

傾向はやや異なるが、やはり電力を理由として技術研究を推し進めているのが日本電信電話(NTT)だ。同社は次世代ネットワークの「IOWN」構想を打ち出しているが、IOWNではネットワークだけでなくデバイスにも光の技術を用いるとしており、半導体に従来の電子技術だけでなく、光工学技術を取り入れた「光電融合技術」の導入を推し進めている。

  • 2021年4月26日のNTT・富士通提携会見資料より。NTTは半導体に、光技術を取り入れた光電融合技術を採用することで、一層の高性能と省電力を実現しようとしている

NTTは光電融合技術の導入によって、デバイスの処理能力向上だけでなく大幅な省電力を実現できるとしているが、なぜ省電力を重視するのかといえば、やはり現在の技術ではデバイスの性能を高めるほど、電力の消費量が大幅に増えてしまうためだろう。電力消費の増大はコストの増加だけでなく、地球温暖化など環境問題にも結びついてくることから、NTTとしてはそのベースとなる機器自体の省電力に取り組むことで、ネットワークを高度化しながらも電力を抑えたい狙いがあるといえそうだ。

5Gでは従来以上に多数の基地局を設置し、さらに6GではHAPSや衛星を活用した上空からの通信を見込むなど、ネットワークの高度化が推し進められることで一層の通信性能向上が見込まれている。だがその高度化が進むにつれ、機器を動かすための電力の重要性が一層高まっていくこともまた確かだ。それだけに今後、通信業界にとって電力の問題は避けて通れないものとなるだろうし、携帯各社が電力に関連した研究を推し進める動きは今後一層加速することになりそうだ。