NTTドコモは2021年10月25日、NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの子会社化を発表した。NTTグループの再編により法人事業を強化するのが主な目的である一方、MVNOとして展開する「OCN モバイル ONE」などNTTコミュニケーションズが持つコンシューマー向け通信サービスは、別会社に移されるもののそのまま継続するという。なぜ、NTTドコモは他社のようにサブブランドを作らず、コンシューマー向けのMVNOを継続するのだろうか。

再編でOCN モバイル ONEはNTTドコモの傘下に

2020年12月にNTTドコモを完全子会社化し、グループ再編を打ち出していた日本電信電話(NTT)。総務省幹部への接待問題が発覚した影響でその再編は遅れていたが、接待問題に関する総務省の調査が終了したことなどを受け、ようやく再編に向けた一歩を踏み出したようだ。

それが2021年10月25日に発表された、NTTドコモによるNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの子会社化である。子会社化される両社はNTTの子会社ですが、それをNTTドコモの子会社とする狙いは法人事業の強化だ。

  • NTTドコモはなぜサブブランドを作らず「OCN モバイル ONE」をMVNOとして残すのか

    NTTドコモは2021年10月25日、NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの子会社化を発表。NTTによる完全子会社化で描かれていた再編がようやく進むこととなる

ここ最近、企業のデジタル化需要の高まりなどを受けて通信事業者の法人ビジネスは活況を呈しているが、固定通信を持たず企業のネットワークに入り込むのが難しかったNTTドコモはその波に乗れずにいた。そこで固定通信を手掛け法人向けビジネスに強いNTTコミュニケーションズと、ソフト開発に強みを持つNTTコムウェアを子会社化し、その上でNTTドコモの法人事業をNTTコミュニケーションズに移して法人事業の一本化を図ることにより、大幅な強化を図るというのが狙いとなっている。

その一方で、コンシューマー向けの通信サービスや、金融やコンテンツなどのスマートライフ事業は、元々強みを持っているNTTドコモに集中する方針を示す。では固定ブロードバンドの「OCN」や、NTTドコモのMVNOとして展開している「OCN モバイル ONE」など、NTTコミュニケーションズが持つコンシューマー向け通信事業はどうなるのかというと、こちらもNTTドコモが主導する形になるようだ。

具体的には、現在NTTコミュニケーションズの子会社でポータルサイトの「goo」などを運営するNTTレゾナントに、それらコンシューマー向け事業を移管。その上でNTTレゾナントをNTTドコモの子会社とすることにより、事業を継続していくという。

  • NTTドコモの再編スケジュール。2022年1月に2社を子会社化し、2022年度第2四半期頃にはNTTコミュニケーションズに法人事業を一本化。一方でNTTコミュニケーションズのコンシューマー事業はNTTレゾナントに移行した後、NTTドコモが同社を子会社化する形となる

ただNTTドコモが主導するのであれば、なぜ子会社を設けてまでMVNOの事業を継続する必要があるのか? という点は気になる所だ。競合となるKDDIは「UQ mobile」「povo」、ソフトバンクは「ワイモバイル」「LINEMO」といったように、MVNOが強みとする小容量・低価格の領域についても、別途サブブランドを設けて自社が直接サービスを提供する形を取っている。

だがNTTドコモは以前よりサブブランドの導入に否定的で、オンライン専用の「ahamo」に関しても他の料金プランとは大きく異なる内容ながら、サブブランドではなくあくまでNTTドコモの料金プランの1つと位置付けていた。それゆえOCN モバイル ONEの事業が継続する理由を紐解くには、NTTドコモがサブブランドを展開したがらない理由を考える必要があるだろう。

2つの顧客に左右されるOCN モバイル ONE

これまでの市場環境と同社の戦略を考慮するに、その理由は大きく2つあると考えられる。1つは独立系MVNOへの配慮だ。

元々NTTドコモは、MVNOにデータ通信のネットワークを貸し出す際に支払ってもらう「接続料」が最も安かったことから、大多数のMVNOはNTTドコモからネットワークを借りてサービスを提供していた。その後接続料の算定方法が変化するなどしたことで、現在の接続料は他社の方が安くなっているのだが、MVNOも既に多くの顧客にサービスを提供しているだけに接続料が安くなったからといって容易にネットワークを変えることはできず、現在もNTTドコモのネットワークを使い続けている所が多い。

それゆえ同社は現在も多くのMVNOを顧客として抱えており、サブブランドを展開してMVNOが得意とする小容量・低価格のサービスを自ら手掛けてしまうと、顧客であるMVNOのビジネスを大きく損ねてしまう可能性がある訳だ。NTTドコモが弱みとしていた低価格・小容量の領域をカバーするため、「エコノミーMVNO」でMVNOとの連携を重視したのも、MVNOへの配慮が理由の1つになっていたといえる。

  • NTTドコモは2021年10月7日に、MVNOと連携して小容量・低価格の領域をカバーする「エコノミーMVNO」を発表。OCN モバイル ONE以外にもフリービットが連携を予定している

そしてもう1つは、NTTドコモが抱える顧客層である。同社は現在、ahamoの展開などにより若い世代の獲得に力を入れているが、足元の顧客として多いのは年配層である。そして年配層は若い世代よりスマートフォンの利用に熱心ではない人が多いことから、データ通信量も少ない傾向にある。

それゆえ大容量プランの契約が多い競合他社とは異なり、「5Gギガライト」などの小容量プランを契約している顧客が多いと見られている。そうした状況下でNTTドコモ自身がサブブランドを展開し、直接小容量・低価格のサービスを提供してしまえば、そちらに多数の顧客が流れ収益が大幅に悪化してしまう懸念もある訳だ。

  • NTTドコモは年配層を多く抱えており、小容量の「ギガライト」などを契約するユーザーが多いと見られることから、自社でサブブランドを展開してしまうとそちらに顧客が大量流出して収益が悪化する可能性がある

だが別法人であり、より低コストで運用がなされているOCN モバイル ONEを活用すれば、NTTドコモブランドに信頼を寄せている顧客の流出はそこまで大きくならないだろうし、ある程度理解のあるユーザーが移ることでOCN モバイル ONEの顧客拡大にもつながってくる。エコノミーMVNOで小容量・低価格の領域をMVNOに任せたのには、先に触れたMVNOへの配慮に加えもう1つ、自社ユーザーの大量流出を起こさずに低価格サービスに誘導する、ソフトランディングを図る狙いもあったのではないだろうか。

NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏は、発表同日に実施した会見で改めてサブブランドを作る考えがないことを示すとともに、もしサブブランドを作ることになっても現在のOCN モバイル ONEとは異なる形で展開するのではないかとの考えを示していた。あくまでOCN モバイル ONEは今後もMVNOとして展開し続けていく方針のようだ。

ただKDDIのUQ mobileも、KDDIが子会社として展開したMVNOを、最終的には本体に吸収してサブブランド化したものであるし、povoも元々は子会社を設立しMVNOとして展開を予定していたサービスを、政府の料金引き下げ要請を受け急遽自社で直接提供するに至ったものである。またソフトバンクのワイモバイルやLINEMOも、元々は独立系の携帯電話会社やMVNOを買収・吸収するなどして紆余曲折の末に生まれたブランドであり、最初からサブブランドとして展開しようとしていた訳ではない。

  • UQ mobileは元々2014年にKDDIが子会社を設立しMVNOとして展開。後にその子会社がUQコミュニケーションズと合併、さらにその後KDDIが事業承継してサブブランドとなるに至っている

そうしたことから今後の市場環境変化によって、NTTドコモの傘下となったOCN モバイル ONEがNTTドコモ本体に吸収され、サブブランドとなる可能性もないとは言い切れないというのが筆者の見方だ。ただそこには、NTTドコモが多く抱える独立系のMVNOと、年配層という2つの顧客の動向が大きく影響してくるというのも、また正直な所である。