NTTドコモが京セラ製の「あんしんスマホ」の販売を発表し、KDDIがFCNTの「arrows We」を販売するなど、ここ最近国内携帯大手が、さまざまな要因から距離のあった国内スマートフォンメーカーの端末を採用する動きが進んでいる。そこに大きく影響しているのはスマートフォンの低価格競争だ。
FCNTはローエンド、京セラはシニア向け新機種を投入
冬春商戦に向けたスマートフォンが各社から相次いで発表されている昨今、国内メーカーも相次いで新機種投入に向けた動きを見せている。その1つがFCNTで、同社は10月5日にスマートフォン新機種「arrows We」を発表している。
これはシンプルさと安心感を重視し、スマートフォン初心者を狙ったスマートフォン。FCNTらしく1.5mの高さから落としても割れない頑丈さや、アルコール除菌ができたり、ハンドソープで洗えたりするなど清潔を保ちやすい仕組みが備わっているのに加え、文字やアイコンが見やすい「シンプルモード」を搭載し、フォントも見やすさにこだわるなど、年配層を主体とした使い勝手に強いこだわりを見せている。
一方で、ディスプレイは5.7インチの液晶、チップセットはクアルコム製の「Snapdragon 480」を搭載するなど性能的にはローエンドといえる内容。NTTドコモのオンラインショップでは21,450円、税抜きでは19,500円という価格で、国内メーカー製ながら2万円を切る安さを実現しているのも大きなポイントといえるだろう。
そしてarrows Weは、NTTドコモ、ソフトバンクに加え、KDDIのauブランドからも販売されることが明らかにされている。FCNT製の端末はNTTドコモからの販売が中心で、時々ソフトバンクや楽天モバイルから販売されることはあったものの、ここ数年来KDDIから販売されることはなかっただけに驚きがあった。実際auからarrowsブランドのスマートフォンが投入されるのは、FCNTの前身となる富士通モバイルコミュニケーションズが2013年に開発した「ARROWS Z FJL22」以来、およそ8年ぶりとのことになる。
だがそうした意味で、より驚きがあったのがNTTドコモの動きである。NTTドコモは2021年10月6日に秋冬商戦向けのスマートフォン新機種を発表したのだが、シニア向けのスマートフォンラインアップとしてとしてFCNTの「らくらくスマートフォン」新機種「F-52B」だけでなく、「あんしんスマホ KY-51B」も新たに加わったのだ。
シニア向けスマートフォンが2機種登場するというのも異例ではあるが、それ以上に異例だったのが、あんしんスマホの開発元が京セラだったこと。実はNTTドコモが京セラ製のスマートフォンを販売するのは初であり、過去を振り返ってもNTTドコモから販売された京セラ製の端末は1998年の情報通信端末「DataScope for DoCoMo」以降、2018年の超薄型携帯電話「カードケータイ」、そして2021年5月より販売しているフィーチャーフォン「DIGNO ケータイ ベーシック」くらいと非常に数が少ない。
スマートフォン低価格化でなりふり構ってはいられなくなった
FCNTも京セラも国内スマートフォンメーカーの老舗だが、なぜ一部の携帯電話会社に採用されてこなかったかといえば、両社と各携帯電話会社との関係性が大きく影響してきたといえる。
FCNTの前身は富士通の携帯電話端末事業だが、富士通は初のiモード対応携帯電話「F501i」を開発するなど、かつて携帯電話端末事業を手掛けていた日本電気(NEC)などと同様日本電信電話(NTT)グループと近しい関係にあり、その競合となるKDDIとは元々距離があったのだ。2010年に東芝の携帯電話事業を統合したことで、富士通グループとして一時au向けにスマートフォンを提供した時期はあったものの、2014年以降は独立してFCNTとなってからも、NTTドコモ重視の姿勢を貫いてきた。
そして京セラは、KDDIの前身の1つである第二電電(DDI)を設立しており、現在もKDDIの大株主であることから、国内ではKDDIやその前身企業への端末供給が主。DDIの設立はNTTグループに対抗する意図が非常に強かったこともあり、そのNTTグループであるNTTドコモに、京セラが端末を供給することはほぼなかったのである。
ではなぜ今になってその関係が崩れたのかといえば、大きな影響を与えたのはスマートフォンの低価格化であろう。ここ数年来、中国メーカーの価格攻勢によって世界的にスマートフォンの低価格化が進んでおり、2021年にも韓国LGエレクトロニクスがスマートフォンからの撤退を表明するなど、価格競争についていけなくなった中国外企業の事業縮小や撤退が相次いでいる。
とりわけ価格競争力に弱く世界的にもシェアが小さい国内メーカーは事業縮小を余儀なくされてきた。実際FCNTや京セラはそうした状況でも生き残りを図るべく、共に幅広い層に向けたスマートフォンへの注力を弱めており、子供やシニア向けなどニッチ市場に活路を見出している状況だ。
一方の携帯電話会社の側にも、別の側面からスマートフォンの低価格化に大きな影響を受けることとなった。それは2019年の電気通信事業法改正によるスマートフォンの大幅な値引き規制で、この法改正によってハイエンドスマートフォンの販売が振るわなくなり、ニーズが急速に高まった低価格端末調達の大幅強化に迫られたのだ。
だが先にも触れた通り、メーカーの競争激化で端末を調達できるメーカー自体が減少しているのが現状だ。とりわけ政府が大株主であるNTTの完全子会社となったNTTドコモは、最近の米中対立を受けてか中国メーカーの採用を見送っているが、それは安価な中国メーカー製端末を調達する競合他社より、端末ラインアップで見劣りしてしまうという問題をもたらしている。
それに加えてKDDIは2022年3月末、NTTドコモは2026年3月末に3Gによるを終了させる予定で、ここ最近は今も3Gを利用している人達を4Gや5Gのサービスに移行する「巻き取り」の強化が求められている。現在も3Gを使っている人達の多くは、携帯電話サービスに対する関心の低いシニアが多いと見られており、そうした人達は海外メーカーよりも国内メーカーに安心感を求める傾向も強いことから、国内メーカーにまたとない事業チャンスとなっていることは確かだろう。
そうした一連の市場環境変化により、国内の端末メーカー2社、そして携帯電話2社共に、国内でのグループ間の競争軸にこだわっていては貴重な事業機会を逃し、競争力を失ってしまう可能性が出てきたことから、従来の関係を超えた端末調達の実現に至ったといえる。スマートフォンの低価格競争、そして低価格端末へのニーズは今後も拡大すると見られることから、国内企業による従来の垣根を超えた新たな関係の構築は、今後も進むことになりそうだ。