今や、情報を得るのがかなり難しくなっています。
その昔、インターバンク間では結構情報を共有していましたが、現在は不可能になっています。その環境の変化のきっかけは、2008年のリーマンショックにありました。
リーマンショック以降に規制強化された理由
それまでは内外問わず顧客動向、オーダー状況が情報交換されていましたが、リーマンショック以降、銀行のもうけ過ぎ批判が強まり、その一貫として「情報交換はまかりならぬ」ということになりました。
それを機に銀行内部ではコンプライアンス(法令順守)、外部からは規制が厳しくなりました。しかし、それまでの「誰それが売った買った」あるいは「オーダーがどこにある」という情報交換頼みのトレード姿勢を改める良いきっかけになったとも言えます。
情報交換頼みのトレードでは得た情報を即物的に扱うばかりで、そうした情報から想像を膨らませることが限られていました。しかし銀行からの情報が入らなくなれば、新聞やネット記事といったいろいろな合法的に入ってくる情報から相場の行く末を推理するということがいやが上にも必要になります。
それがどういうことか、一例を挙げてお話ししてみましょう。
スパイであった大使館付き武官のエピソード
第2次大戦中、スウェーデンはストックホルムの日本大使館付きとなった武官の話です。彼はスパイで、彼に与えられた任務はヨーロッパ情勢を把握し、日本の大本営に報告することでした。
それでは、実際に、彼はどうやって情報を収集したかというと、ヨーロッパ中の新聞を手にし片端から読んでいくことでした。実はもう随分前の話ですが、日本の情報機関、内閣調査室でも新聞を読み漁ったそうです(ただし、時代も変わりましたので、やり方も変わったかもしれません)。
話を戻して、スウェーデンの大使館付き武官の件ですが、そうして地道な諜報活動の末に彼が注目したのが、ロシア国境にドイツ軍が集結しているということでした。しかも、大量の棺桶をドイツ軍が持ちこんでいることがわかりました。
そしてこの大量の棺桶のことの調べを進めたところ、開戦に当たり大量の棺桶を集めるのがドイツ軍の習慣であることがわかり、これで彼はドイツ軍はロシアに侵攻すると確信しました。
早速大本営に連絡を取り状況を伝えたところ、当時既に鬼畜米英との開戦に傾いていた大本営は彼の進言を取り上げることもなく無視してしまいました。そして間を置かずしてドイツ軍はロシアに侵攻したのでした。
この例の中で注目してほしいことは、情報収集が実に地道だということです。
ヨーロッパ中の新聞を読むということは、根気がいるとともに情報が陳腐化しないようにできるだけ急いで読む必要がありますし、それ以前に多種の言語にも精通しなくてはなりません。このように、「情報を推理する」と一言で言っても、実は大変な努力が必要です。
日本の銀行にいた頃の同僚で、同じように情報収集のためロイターの記事を延々と読んでいる人間がいました。
当時のロイターの情報はティッカーと呼ばれる小さなプリンターにロール紙をセットして、日がな一日いろいろなニュースがカタカタ言いながらプリントされました。このプリントされたロール紙を彼は一日中読み、情報を集めていました。
そして「千三つ(1,000件に3件)」くらいの割合で出物に巡り合い、大きくポジションを張って、もうけていました。
聞けば気が遠くなるような話ではありますが、実は効率の良いやり方だと思いますし、けがが少なくできることだと思います。この方法が絶対だとは毛頭申し上げませんが、必要なことは創意工夫だと思います。いろいろと、チャレンジしてみてください。
※画像は本文とは関係ありません
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。