7月・8月は夏休みシーズンと言われますが、例年、7月は結構動きます。今年の7月相場もご多分に漏れず結構動きました。それでは8月相場はどうなのか確認しておきたいと思います。
まず私の経験から申し上げれば、8月の前半はもっとも夏休み相場らしくなり、超閑散相場になることが多いです。それが8月後半になると、例年米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザス連銀主催の年次シンポジウムがあり、先進国の中央銀行総裁はじめ要人が集まります。
これに前後して、欧米勢の実質的な下期のスタートとなる9月第1週月曜のレイバー・デー(Labor Day)明けから相場の前哨戦が始まります。したがって、8月の後半も意外と動く場合があります。
なお、8月前半はドル/円については上値が重くなることが過去散見されましたので、その原因についてお話ししておきたいと思います。
米国債の利金の円転
8月早々から影響がでるのが米国債の利金の円転ですので、前もって心の準備をしておくことが大事です。毎年8月に発生する米国債の利金の円転は、結構ドル/円の8月相場に影響を与えることがありますので、気にとめておくことをお勧めします。
まず、「米国債の利金の円転とは何か」と言えば、米国債に投資している国内投資家が、米国からドル建てで受け取る利金(利息)を円転(ドル売り円買い)することです。
実際のところ、2月、5月、8月、11月の年に4回、利金を受け取りますが、為替相場に影響を与えるのはマーケットが薄い時期のこともあって8月で、他の三つの月についてはあまり定例的な影響はありません。ここで、過去3年間の8月相場を日足で見てみたいと思います。
2014年は上げ相場ながら、この時期だけ重くなっています。
2015年は8月上旬からジリ下げ後、8月後半に急落です。下落後さらに急落して下ヒゲを長く出しているのが、チャイナ・ショックです。
2016年は、8月初めから急落です。
もちろん、いずれも利金の円転だけが影響した相場ではないものと思いますが、比較してみましても8月の特に前半は上値が重くなってきていることがわかります。また、米国債の利金だけでなく元本も償還されますが、今のところは元本については、概ね米国債に再投資し、円転の主流は利金、つまり利息部分です。
余談ですが、もしも、現在同じように海外から得ている利息や配当金を海外に再投資され、これを経常収支の所得収支と言います、これらの再投資をやめ、円転することになると、とてつもない円高に見舞われることになる可能性がありますので、注意しておく必要があります。
さて、米国債のドル建ての元本・利金の受取日は8月15日ですが、信用力の高い生保のような機関投資家は、スワップ取り引きを利用して8月1日に前倒してドル売り円買いをして円を受け取るところもあります。
しかし、一般投資家の場合は15日にドルが入ってきたことを確認してから、円に換えるのが一般的です。 要は8月に入ると15日過ぎまで、この米国債絡みの円転(ドル売り円買い)が続く傾向があります。ただし、この米国債の利金の円転につきましては、過度には期待しすぎず、けれどもそういうことが8月に起きやすいと頭に入れておくぐらいが良いように思います。
このように、8月は休みと言いながらも、定例的な米国債の利金の円転、ジャクソンホールでの経済シンポジウム、あるいは2015年のチャイナ・ショックのような突発事件もあり得ますので、やはり油断はできないと言えます。
四六時中緊張したら疲れてしまいますが、少なくともポジションをお持ちになるなら、ある一定の緊張感は持つべきかと思います。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。