先月後半から、ユーロ/ドルやポンド/ドルの買いが強めになっていると感じました。
ご存じのように、ユーロ/ドルは2014年4月から2015年2月までの間に約3400ポイントもの急落後、過去2年あまりの間1.0400~1.1400あたりの1000ポイントレンジに収まっていました。一方ポンド/ドルは、昨年の2016年6月のブレグジット以降、約2700ポイントの急落後上値の重い展開が続いていました。
ところが既に申し上げましたように、先月の後半からユーロ買いポンド買いが急激に進み、一方でドルは急激に売られ始めています。
そして本日の早朝、仏大統領選の結果マクロン氏が勝利宣言を行い、ユーロ/ドル、ポンド/ドルは一段の上昇を見せています。
ユーロとポンドの上昇、ドルの下落の根幹的な理由
今般のユーロとポンドの上昇、ドルの下落の根幹的な理由としては、今年1月20日に米大統領に就任したトランプ氏に対する欧米投資家筋の投資方針が既にフランス大統領選前に決まり、その結果が追認されたのに過ぎないと見ています。
一言で「欧米投資家筋」と言っても、どういう人たちのことかについて申し上げておきますと、政府系ファンド、年金運用機関であるペンションファンド、機関投資家、そして中央銀行などのことです。つまり基本的にお堅い人たちであり、多額の運用資金を預かり慎重に運用対象の物色をします。
しかし、いったんこれと決めたら、後は怒とうのごとく資金を移動させます。
例えば既に申し上げましたように、ユーロ/ドルは2014年4月から2015年2月までの1年弱の間に約3400ポイントもの急落をしています。こうした欧米投資家が実際に動かなくては、現実とはなりません。
そして今回ユーロ/ドルで申し上げるなら、まだ2015年2月以来のレンジを上にブレイクしていないにもかかわらずユーロ上昇の可能性を見ています。それは先月来、トランプ大統領が矢継ぎ早にシリアへの59発にも及ぶ巡航ミサイルでの報復攻撃がありました。
そしてそのことが北朝鮮の地政学的リスクを想起させ、実際にも普通公表されることのない航空母艦・潜水艦を含む米艦艇の日本海での展開が報じられるに至り、一気に緊張が高まりました。
そのことにより、100日間の蜜月期を満了しようとするトランプ大統領に対する欧米投資家の投資方針が決まったものと思われます。
資金移動はどこまで続くか
就任早々の米大統領で過去に同じようなことが起きたのは、2001年1月に就任したジョージ・ブッシュ大統領のときでした。成り立ての大統領は実績を作ろうと腐心しますが、ジョージ・ブッシュ大統領はイスラム圏に圧力を加えました。その結果として2001年9月11日にオサマ・ビンラディン率いるテロ組織アルカイダから、史上初めての米国本土への直接攻撃を受けました。
具体的には旅客機がハイジャックされ、それがニューヨークのワールド・トレード・センターやワシントンD.C.のペンタゴン(国防総省)に突入あるいは突入が試みられました。
これによりブッシュ政権はヒステリー状態に陥り、他の国・地域からはアメリカに資金を置いておくこと危険とみなされました。それでも欧米投資家は熟慮検討の末に、実際には翌年の2002年2月からドルからユーロへの資金移動を開始し、この動きは6年にも及びました。
つまり、欧米投資家がリスクを感じたときは、結論が出るまでは時間が掛かってもいったん決断すると止まらなくところがあり、正に実際、現状ドルからユーロやポンドへの資金移動が始まっているものと思われます。
それでは円はどうかと言いますと、たしかにユーロやポンドのこれまでのリスク回避としての円買いがあったことは確かですが、既に円からユーロやポンドに資金移動が始まったと見ています。
しかしドルからの資金移動に比べて円からの資金移動の規模はそれほど大きくはなく、多分大方済んでいるものと思われますので、ここしばらくドル/円はあまり方向感のはっきりしない相場になるのではないかと思います。
それよりもユーロ/ドル、ポンド/ドル、あるいはユーロ/円、ポンド/円の上昇の可能性が高いものと思われ警戒が必要です。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。