その通貨を扱うなら、その国へ行ってみる。

私が新米ディーラーのとき先輩ディーラーから言われ、実際その国へ行ってみて確かにそうだなと実感したことです。これはお金と時間のかかる話ですので、そう簡単にいってらっしゃいとは言えませんが、ご機会があれば是非ご自分がよく取引をする通貨の国へ行ってみることをお勧めします。

その国へ行って、何も銀行の調査部や役所に顔を出すとかそういうことではなく、町を歩いてみるだけでもその国のスメル(匂い)やその国の雰囲気、ひいては、その国の通貨の特性のようなものが実感できるものです。

著名投資家ジム・ロジャーズ氏も投資対象の国を定期的に訪問して、自分の足でその国が投資の対象に足りうるかを検分しています。彼のすごいところは、必ずその国の一番危険とされる地域に足を踏み入れているところです。多分、そこにその国の縮図が見えるのでしょう。ただし、これは彼の場合であって命あっての物種ですので、決して皆様にはお勧めしません。

その通貨を扱うなら、その国へ行ってみること(画像はイメージ)

北欧出張

私がロンドンにいたとき、スカンディナビア半島の三国、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの各首都を2泊3日で出張したことがありました。実に飛行機で1時間そこそこで移動できる隣り合わせの国同士ながら、それぞれに違いがあって、驚きました。

フィンランドはアジア系のフィン人の国で、フィンランド語でフィンランドのことを「ソーメン」と言います。首都ヘルシンキの町の雰囲気に底知れぬ力強さを感じました。男女同権の意識が強いのか、バスの運転手も女性が当たり前のようです。また、白夜を初めて経験したのがフィンランドでした。

スウェーデンの首都はストックホルム。ここは、ボルボやサーブを生産輸出する北欧一の経済大国ですので、首都の町の雰囲気にもどこかしら洗練されたものを感じました。また、国防意識が強く、地下鉄が核シェルターになっていることは有名な話です。

最後にノルウェー、バイキングの国です。この国の首都はオスロです。このオスロの国際空港はフィヨルドの中にありますが、行った当時その規模の小ささには驚きました。地方空港という趣で、ヘルシンキ、ストックホルムの空港と比べようもありませんでした。オスロの町もこじんまりとしていてのどかで、バイキングのふるさとにふさわしい雰囲気を感じました。この国は水産国であると同時に、北海油田を持つ産油国でもあります。

ここであげた例はあくまでも一例です。英語で「ステレオタイプ」、つまり既成概念を持っていると、既成のイメージでその国・その通貨を見てしまい、本質を見誤ってしまうことがあります。その意味からは、やっぱりその国に行ってみることが一番です。

北欧のディーリングルーム

スウェーデンは北欧の中でも工業化が進んでいる国で、それに伴って金融機関も発達しています。訪れたのは大手のスカンジナビスカ・エンスキルダ・バンケンという銀行のディーリングルームでした。こわもてのチーフディーラーの下、結構な大所帯です。圧倒的に金髪で白い肌のディーラーが多く、さすがは北欧のディーリングルームという感じでした。

当時、私は2国間金利差の拡大縮小を予測してトレードするスワップディーラーでしたので、その銀行のスワップディーラーと話してみたいと思っていました。ところが、さすがは本店だけに実需取引が多いようで、スワップディーラーは立ったままひっきりなしに顧客にプライスを出していて、その忙しさには驚きました。

彼の動きに見ほれていたところに、良く焼けた肌のディーラーがディーリングルームに入ってきました。彼はその銀行のシンガポール支店のディーラーと見え、お土産にアジアで買ったパチもん(偽物)の腕時計を皆に配っていました。

こんな具合で、ディーリングルームに活気と明るさがあって、どこの国のディーリングルームも似たり寄ったりだと感じたことが出張の大きな収穫だったように思います。為替のマーケットは世界に広がっていますが、実はスモールワールド(世間は狭い)な世界です。

為替介入

この出張で、為替介入(Intervention、インターベンション)の現場を中央銀行で見る機会がありました。それは決して日銀でもなく、ニューヨークFEDでもなく、ECBでもBOEでもありませんでしたが、こんな感じなんだなと大変勉強になりました。

それは、ノルウェーの首都オスロにあるノルウェー中銀(Norges Bank、ノルゲスバンク)でのことでした。表敬訪問したノルウェー中銀のディーリングルームは、こぢんまりしていました。訪ねていったときからどうも緊迫した雰囲気が漂っていましたが、そのうちディーラーが集まりチャートに首引きになり、何やら真剣にノルウェー語で議論を始めました。そして結論が出たらしく、一斉に地場の銀行(多分)をホットラインで呼び為替介入を実施したもようでした。

一服ついて、マネージャーが待たせていた私のところにやって来て、「待たせてすまなかった」と言うので、「為替介入をしていたのでしょう」と答えたところ、「ノルウェー語がわかるのか?」と言うので、「いやいや、それは中央銀行のあの雰囲気はそれしかないじゃないですか」という話になり、やけに打ち解けた雰囲気になったことがありました。

今時、さすがのノルウェー中銀でもこんな外部者に為替介入の一部始終を見せるようなのどかなことはしないと思いますが、中銀サイドから為替介入を見るというとても貴重な経験をしたと思っています。こうした経験は、その国・地域の通貨のバックグラウンドを知る上で、大変役に立つと思いますので、機会がありましたら、是非行ってみてください。

※画像は本文とは関係ありません。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら