これは2010年頃からのドル/円の現在に至る月足チャートです。
ご存知のように、2012年10月頃からアベノミクスが脚光を浴び、それに米系ファンドなど海外勢が乗り、翌2013年5月までに約20円の上昇を見ました。その後いったん落ち着きましたが、2014年10月末に追加緩和策である黒田バズーカ第2弾が発表されると、ドル/円は上昇を再開し2015年6月には125円86銭の高値をつけました。
しかし、これと前後して2014年7月から原油価格が急落しました。東日本大震災後、原発事故が原因で国内すべての原発が停止しましたが、その代替エネルギーとして液化天然ガスが大量輸入されたことで45年ぶりに貿易収支が大幅に赤字となっていました。
この貿易赤字が原油価格の急落によって劇的に減り、これによりドル買い圧力が大幅に後退したため、実際には翌2016年からドル/円は急落し一時99円台まで下げました。
ところが2016年11月の米大統領選でトランプ氏が当選すると、強烈なドル買いが出て12月15日には118円66銭の高値をつけましたが、その後は徐々に下げています。
この2012年以降現在に至る相場を俯瞰して見てみますと、ドル/円に良く見られる「変形ダブルトップ」という形状を今後形成する可能性が高いのではないかと見ています。
「変形ダブルトップ」とは?
通常ダブルトップは、同じぐらいの大きさの山がふたつでき、麓に当たるネックラインができる形状です。
ところが、2012年以来の月足チャートでも言えますが、ドル/円の場合は左の山が高くて大きく右の山が低くて小さくなって変形ダブルトップが完成することが良く見受けられます。
そして、変形ダブルトップの麓(ネックライン)が下に割り込む、左の山と麓の高低差分麓から下がるというものです。つまり、100円(麓)-(125円(山のトップ)-100円(麓))=75円となり、2011年10月につけた戦後最安値75円32銭あたりまで戻すことになります。
国内外の動き
当初、トランプ米大統領に対する投資家の投資判断に半年ぐらいかかり、その間はレンジ相場が続き、相場が動き出すのは9月の欧米勢の実質的な下期のスタートからかと見ていました。
しかし、ここに来てトランプ大統領はシリアへの59発の巡航ミサイルによる攻撃、あるいは北朝鮮に対しても中国を巻き込みつつ行動に出てきている一方、米国内でのトランプ大統領に対する反対デモも増してきている状況で、これに対する投資家の投資判断がはっきりしてくるのではないかと現在見ています。
過去には、2001年9月11日に米同時多発テロが発生しました。その原因は、2001年1月にジョージ・ブッシュ大統領が就任し、早速イスラムに対して圧力をかけたことで、オサマ・ビン・ラディン率いるテロ組織アルカイダが抵抗活動として世界を震撼とさせた大規模なテロ行動に出ました。
なお、2001年のケースでは、翌年から6年間に亘る米国からの資金逃避のため、約7,000ポイントのユーロ高ドル安相場となりました。この前例を無視しない方が良いと思います。
一方、国内的には、一番気になるのがGPIFをはじめとする日本の機関投資家の動きです。
1990年台半ばから、バブル崩壊後機関投資家はリスクを嫌い、円債一辺倒となりました。しかしそれから20年、機関投資家総出で円債運用をしたため、当たり前のことですが円債の運用難となりました。
そして2014年、GPIFは円債の投資配分を大きく減らし、日本株、外債、外国株式への投資配分を増やしました。そして、外物(そともの、外債、外国株式)の運用にあたり、為替リスクをヘッジするドル売りもしていますが、完全にヘッジしてしまうと運用利回りが出なくなってしまいますので、ヘッジを掛けていない部分もあります。したがって、為替相場がドル安円高になるとヘッジ売りが更にかさむことになります。
しかも、昨年の11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選したことで、米国債利回りが急上昇(価格の急落)したことによって、本邦機関投資家は今度は金利リスクも負うことになりました。
今後、米国債利回りが更に上昇することになると、場合によっては米国債を損切ってレパトリ(資金の本国回帰)するためにドル売り円買いをせざるを得なくなることも考えられます。
最後に、変形ダブルトップですが、これはあくまでも単純なテクニカル分析の結果ではあります。しかし、相場が大きく動くとき、実はシンプルなチャートの方が当たることが多く、そういう意味では無視できないものと見ています。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。