地方銀行(地銀)はここ数年、国内での運用難から外債運用に大幅に舵を切っていました。しかし、ここにきて米国の金利の上昇を受けて、保有している外国債券に大幅な含み損が発生しているとのことで、金融庁が地銀に特別検査に入ると報じられています。
もちろん、この問題は地銀に限ったことではなく、国民年金・厚生年金の運用を携わるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を始め、生保、メガバンク等、国内機関投資家すべてに関わってくる問題だと見ています。
そもそも何がどうしたことで今回のことが起きたかですが、話は20数年前にさかのぼります。
このような問題が起きた理由とは?
日本のバブルの崩壊前、日本では当時「ザ・セイホ」と呼ばれて、内外にその名をとどろかせた生保業界を中心に積極的に外債購入が行われました。
しかしバブル崩壊後、外債運用で多大な損失を被った本邦機関投資家は、一変してリスクを嫌うようになり、ほとんどの運用を日本国債にシフトさせました。
それから約20年間、ただひたすらリスクを避けるために、日本国債での運用が続けてきました。こうして日本の機関投資家のほとんどが日本国債に右ならえした結果、当たり前のことですが、今度は日本国債で利回りが出なくなりました。
そこで今から4年ほど前に、GPIFが米国債を中心とする外債運用に積極的になったことを受け、またしても業界全体が右ならえして外債投資に積極的になりました。この外債運用の中には、人口減少や地域経済の後退から貸し出し難となり、新しい運用先としてやむなく外債に活路を見いだそうとした一部地銀のようなケースもありました。
たまたま本邦機関投資が外債購入に走った2013年~2015年当時は、円安気味だったこともあり、為替リスクはオープンで(外貨売りのヘッジを掛けない)で始めたもようです。その後、GPIFのように、引き続き為替ヘッジを掛けない方針のところもあったかわりに、為替ヘッジを掛けるところも出たように、投資家によりいろいろでした。
しかし、昨年末の米大統領選挙でトランプ氏が当選して以来、米国債の価格は急落し(利回りは急上昇)し、地銀はじめ本邦機関投資家が損失を抱え込んだことは、本文の最初で申し上げた通りです。
日本の機関投資家の右ならえ体質が20数年間変わることなく続いていたものと思われます。その上、20数年ぶりの外債投資だけに経験者はおらず、手探り状態だと見ています。
外債投資に絡む為替取引は相場にどのような影響を与えるのか
さて、この外債投資に絡む為替取引が為替相場にどのような影響を及ぼすか考えてみました。基本的には、外債を損切って円に回帰するときが来るものと見ました。
ケースはふたつあると思われます。ひとつはGPIFのような為替のリスクヘッジは掛けない方針のところです。もうひとつはドル売りをすることによって、為替ヘッジを掛けているところです。
なお、いずれも外債投資は円投(外貨買い円売り)で行われたと約4年前後前には言われていましたので、それを前提にお話しします。
まず、ひとつ目の為替ヘッジなしの場合ですが、これは外債を売って円に戻すということになれば、マーケットではドル売り円買いが強まるものと思われます。
もうひとつの為替ヘッジが掛けられている場合、外債購入(ドルロング)後ヘッジのドル売りをするわけですから、ポジション的にはスクエア(ポジションなし)の状況になっています。ここで外債から撤退するとなると、外債を売って得たドルを売って円に換えなくてはなりません。
つまり、ヘッジなしでも、ヘッジありでも、国内に円で回帰するためにはドル売りが必要で、またこれも右ならえになるならば、大変な量のドル売り円買い圧力が発生することになるのではないかと危惧しています。
ただし、ヘッジなしとヘッジありの違いは、ヘッジなしはその時点でのドル/円レートにより為替差損益が発生しますが、ヘッジありは為替差損を基本的に回避できます。
※画像は本文とは関係ありません。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。