ECBが追加緩和の可能性、ユーロ/ドルはユーロ安方向に
先週木曜のECB理事会後の記者会見で、ドラギECB総裁は、12月3日にも追加の金融緩和を決める可能性を示したことから、ユーロ/ドルはユーロ安方向に動き出しました。
このドラギ総裁による、緩和を決定するECB理事会のひとつ手前の理事会後の記者会見で追加緩和の事前予告するのは、これが初めてではなく、今年5月の理事会後の記者会見でも6月の理事会での追加緩和をすることを予告していました。
これは、唐突な発表によってマーケットが過剰反応を起こさないようにするための周到に練られた手順に従ったもので、マエストロと呼ばれたあのグリーンスパン氏がFRB議長であった頃を彷彿させるものがあります。
こうした準備がしっかり行わると、臆病なマーケットも従順になり、中央銀行の方針につき従うものです。
ドラギECB総裁も、市場の洗礼
しかし、それまでに至るまでに、グリースパン議長も、ドラギ総裁も、市場の洗礼を受けています。
グリーンスパン議長は、ブラックマンデーという株の大暴落を経験しています。
しかし、暴落は、グリースパン議長が間髪入れず行った、市場への大量の資金供給により一過性で終わり、逆に、マーケットはグリースパン議長に尊敬の念を抱き、その後従順にFRBにつき従うこととなりました。
一方、ドラギECB総裁も、市場の洗礼を受けています。
2012年の7月はじめ、それまでに既に欧州金融危機から、ユーロ/ドルは急落していました。
そうした危機的状況の中で、ドラギ総裁はマーケットに「ユーロを救うためなら権限の範囲内で何でもする、私を信じてくれ」と訴えかけました。
この発言のタイミングが良く、発言後相場は大きく反転しました。
その後、ドラギ総裁の発言に、マーケットは全幅の信頼を置くようになったことから、同総裁は、ユーロをコントロールする立場となりました。
マーケットはたとえて言えば、臆病な巨象のようなもの
マーケットはたとえて言えば、臆病な巨象のようなものです。
唐突な発言や経済指標の予想外の結果などがありますと、巨象はパニックを起こし暴走することになり、誰もが暴走を止められなくなってしまいます。
その点、グリースパン議長にしても、ドラギ総裁にしても、そうした巨象の臆病さと凶暴さを知っているだけに、事前、事前に、これから、FRBなりECBが何をやろうとしているかについて、マーケットに語り掛け、そして、理解を求めました。
ですので、先週の木曜のドラギ総裁の発言も周到に準備されたものであり、ユーロ/ドルは下落してはいるものの、パニックには陥らず、ゆっくりと下げて来ています。
イエレンFRB議長、いまだに利上げをやるかやらないか優柔不断の状況
それに対して、好対照なのは、イエレンFRB議長です。
FRBの利上げ観測が出て、すでに1年以上経っているにもかかわらず、いまだに利上げをやるかやらないかはっきりしない優柔不断の状況です。
しかも、やっても、0.25%の利上げではなく、0.125%止まりという意見も出る始末です。
イエレン議長の優柔不断さは今に始まったことではなく、理事の頃からのことで、なかなか治らないものと思われます。
ただし、市場は冷徹なものです。
もしも、イエレンFRB議長が決断能力に欠けると大方の市場参加者が認識することになれば、市場の洗礼を受けざるを得ないと思います。
黒田日銀総裁は難しいかじ取り
さらに、黒田日銀総裁について触れておきますと、同氏は、ADB(アジア開発銀行)総裁として辣腕をふるったことで有名です。
とても、優秀な方だと思っておりますが、原油安による物価の下落と、生活必需品や生鮮食料品による物価の高騰が併存するという難しいかじ取りを取らざるを得なくなっています。
FOMCの利上げ、日銀の追加緩和、今となっては時間切れ
各中央銀行を見比べてみて思うことは、いかに機動的に決断を下すことが大事かということです。
先週、ECBは早々に追加緩和の事前予告したことによってEUR/UDは下落を始めています。
そして、今週は、28日(水)にはFOMC、30日(金)には日銀金融政策決定会合があるわけです。
しかし、ECBのような戦略的に間髪入れずに、自行の方針、つまり、FOMCならば利上げ、日銀であれば追加緩和を実行に移せるのか、今となっては時間切れのようにも思えます。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。