今年一年を通してみると、ユーロ/ドルが最後こそ下に割り込んではいるものの、レンジ相場であったのに対して、ドル/円は下落、安値圏で横ばい、そして上昇と動きました。その結果、ユーロ/円はドル/円に連れた動きをした、つまり、今年は「ドル/円が主導した年」であったことがわかります。
そこで、年を通して相場を主導したドル/円を見てみますと、ドル安は昨年の12月頃から始まりました。その大きな原因は、2014年7月からの原油価格の急落です。
ドル安の原因は原油価格の急落
日本にとって、原油価格が急落するということは、当時大幅な赤字となっていた貿易収支を改善させる大きな出来事だったと言えます。しかしながら、2015年は、ドル/円は、高値圏で横ばいとなり、あまり原油価格の下落が相場に反映されませんでした。
これは2012年~2015年に掛けてのアベノミクスによるドル高の勢いとそれまでの貿易赤字のドル買い需要によるものです。原油価格急落からの原油購入のためのドル買いの減少とが拮抗した状態が続き、とうとう2015年12月から下落に転じました。
そして、ドル安を皮肉にも加速させたのが、2016年1月29日に日銀によって発表された「マイナス金利政策の導入」でした。当然、投機筋はこれに飛びついてドル買い円売りに出て3円ほど急上昇しましたが長続きはせず、2月に入り逆に10円ほど急落、その後も下落を続けました。
この辺が、原油価格急落によって輸入のドル買い需要が急低下したことによるドルの下落でした。これで、約20円の下落を見ました。
ブレグジット、米大統領選も影響
そして、6月23日、イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票(ブレグジット)が行われ、離脱はしないと見ていた大方の予想に反して、離脱が決定したため、リスク回避の円買いが強烈に出て、翌24日には、ドル/円は一時99円まで下落しました。
このときの強烈な円買いは、値動きから見るとそれまでなかったと思えるほどの強烈だったことを鮮烈に覚えています。しかし、これが下落の打ち止めになったもようで、それから10月いっぱいまで、100円~107円50銭あたりでのレンジ相場になりました。
そして、米大統領選前日の11月7日からドル/円は上昇トレンドに入りました。これは、民主党のヒラリー・クリントン氏の当選期待が高まり、事前の見方としても、クリントン氏勝利でドル高、そしてトランプ氏勝利でドル安という下馬評が立っていたためでした。しかしながら、投票日翌日の9日に蓋を開けてみれば、トランプ氏優勢の見方に、いったんは101円19銭まで売られたものの、そこからは、予想をはるかに上回るドル買いが強まりました。
11月9日のドル/円の東京寄り付きが105円37銭でしたので、12月15日には118円66銭と、なんと約12円以上の上昇を見ました。既に申し上げましたように、ブレグジットのときに桁違いのドル売り円買いが出たことを実感しましたが、大統領選後のドル買い円売りもまた、すさまじいものを感じました。
ビッグ・プレイヤーは誰か
そして、ここからは私の下衆の勘繰りではありますが、6月のブレグジットでのリスク回避の大量の円買いをしたビッグ・プレーヤと同じプレーヤーが、大統領選の結果が出て、それまで持っていた円買いポジションを手じまうために、強烈な円売りをしてきたのではないかということです。
だからこそ、トランプ氏勝利でドル売り円買いと言われていたのが、強烈なドル買い円売りによって、押し戻され、更に上昇に転じ約12円の上昇となったのではないかということです。そうでもなければ、こんなドル高円安相場にはならなかったものと思われます。
そして、そのビッグ・プレーヤーはだれかと言えば、消去法でやはり中国ではないかと考えています。
このように、今年の為替でのビッグ・イベントは、日銀によるマイナス金利政策導入、イギリスのブレグジット、そして米大統領選と考えています。つまり、何でも起きる時代になっていると考えるべきで、くれぐれも脇を緩めず油断しないように心がけることが大切だと思います。加えて、中国の動静には、十分な注意が必要です。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。