ドル/円の日足のチャートを見てみますと、米大統領選前日の11月7日から上げはじめ、それからこれまで、約8円の上昇となりました。
前回62号では、米系ファンドの買い対本邦輸出企業の売りという構図があると申し上げました。この構図は、確かにあるのですが、それ以外にも、米系ファンドに立ち向かっている今や大きな存在が他にもあったことを確認しました。
それは、日本の個人投資家層です。
大きな存在となっている個人投資家
個人投資家と言えば、金額的も少額で、また一枚岩でもないと思われがちですが、実は今や、外国為替取引で個人は、大きな存在になっています。
たとえば、世界の個人のFX取引の内、5~6割は日本の個人投資家層が占めていて、そうした個人投資家にプライスを供給しているFX会社の中には、「取引高世界1位」を広告のうたい文句にしているところさえあります。また、東京外国為替市場においては、個人のシェアが全体の少なく見積もっても、4割はあるもようです。
個人の取引である以上、多様な価値観を持ち、そして決して一枚岩ではない個人投資家層ですが、局面によっては、同じような行動に出ることがあります。今回の場合は、大統領選の後、ジリ高相場が、それに当たります。
大統領選開票後のジリ高相場
大統領選開票当日の激しい売り買いの末に、意外にもドル買い相場となったところから、個人投資家層の動きが活発になりました。
日足でも1時間足でも、お分かり頂けると思いますが、一本調子の上げとなったことから、個人のみならず、マーケットの多くのマーケット参加者が、急上昇する相場に、なかなか飛びついて買う勇気がでず、むしろ、戻り売りを始めたことが、その後の明暗を分けました。
1時間足のチャートをご覧ください。11月10日頃から、対角線を描くようにして、右肩上がりの上昇が続きました。一般に、こうした一本調子の上げは、激しく買い上げるから出来上がるものだと、見ている方が多いと思います。確かに、回数は少ないですが、そういう場合もあります。
しかし、より多い例は、戻りを売って、下がったら買い戻そうとするトレードです。戻り売りをしても、本邦勢のショートをあぶり出そうとする米系ファンドからの買いが引かないことから、それ程下がらず、むしろ上がり始めたので買い戻します。
ところが、他のマーケット参加者が新たに戻り売りをした結果、また下がらず、ジリ高が続きます。そこでやむなく買い戻しを繰り返し、戻りを売って下がらず買い戻す、このような動きを多くのマーケット参加者がやるため、いつになってもショートポジションは減りません。それどころかショートが増えてしまう始末です。
ジリ高を始めたら個人投資家はどう動くべき?
こうしたジリ高が終わるには、ひとつには、バイイング・クライマックスという、相場が急上昇したことなどにより、さすがにあきらめて極短期間にショートの買戻しを集中して、ショートポジションが解消され、打ち止めになることがよくあります。
また、途中で下がらないことに見切りをつけて、ポジションをロングにひっくり返す動きも時には出ますが、急に高い持ち値のロングができてしまって上げきれなくなると、急落する場合もあります。
いずれにしましても、ジリ高傾向が続くのであれば、売り上がりに変化はなく続いているということです。
今回、こうして、米系ファンドの買い対日本の個人投資家層の売りは、残念ながら、米系ファンドが勝ちそうですが、今後のためにも申し上げたいことは、やはりジリ高を相場が始めたら、売り上がりは中止し、ショートが残っているようであれば、速やかに買い戻すことだと思います。
さらに、ジリ高が変わりそうもなければ、押し目買いで流れに乗って、いくらかでも利益を取り戻すことです。
こうした緊急行動で、何よりも必要なことは、早く決断することです。熟慮考慮の上決めるのではなく、反射神経で決めていくことが大事だと思っています。トレーダーは、訓練はできません。多くの経験を積んで、いろいろな体験を自分の頭に刷り込んでいく事が大事だと思います。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。