今回は相場を張る上で特に注意すべき点について、エピソードとともにお話ししましょう。
金魚鉢の中の嵐
東京市場で結構見受けられることですが、ある材料について、東京だけが盛り上がってしまうことがあります。
私が、ニューヨークに駐在していた頃の話ですが、ある週末土曜日にG7が開かれることになりました。 東京では、G7ではドル安を容認されるもようだとマスコミもあおり、また東京のディーラーの多くもその見方に乗りました。
そして、日曜日、G7ではどういうことになったのだろうと、新聞スタンドに行って、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナル、そしてワシントン・ポストを買ってきて、どれどれと記事を探しました。
ところが、どの新聞にも、関連する記事は一行たりともなく、目を疑いました。そして、翌日月曜の東京では、期待を裏切られたディーラー筋の買い戻しが集中し、大きく反発しました。
東京が大盛り上がりに対して、米国は無関心、という例は決して珍しいことではありません。
日本にとって米国はすべてと思いがちですが、米国にとって日本はワン・オブ・ゼム(皆の中のひとつ)でしかないことに注意する必要があります。
また、日本では、日本語による情報が中心だということもあって、金魚鉢のような限られた世界の中で、情報が駆け巡り、国内だけで盛り上がる傾向がありますので、見方の切り口が違う海外情報も知っておくことが大切です。
情報のガラパゴス化(※)は、意識して避けるべきかと思います。
※外界から隔絶された環境下で独自の発展を遂げ、その結果として世界標準の流れからかけ離れていく状態
ステレオタイプ
例えば、フランス人はフランス語しか話さないというのが、典型的なステレオタイプ(既成概念)でした。
私も、フランス人はそういうものだと思っていました。ところが、東京にいたあるとき、パリの銀行から3人のディーラーが私のいたディーリングルームに表敬訪問してきたことがあり、私が面談することになりました。
そして、彼らは、当然のように英語を話し、相場の話で盛り上がりました。
後日、その3人の中で特に親しくなった奴に、「フランス人は、フランス語しか話さないものだと思っていたよ」と話しましたところ、「そんなことないよ。今の特に若い連中は、ビジネスをする以上、英語は必須だと思っているよ」という返事が返ってきて、自分自身がステレオタイプでフランス人を見ていたと、大いに反省したことがありました。
これは相場を見ていく上でも言えることで、その国、その通貨を、ステレオタイプ(既成概念)に陥らずに見ることが大変大事です。
その国であり、その通貨は、それだけで独立して存在するのではありません。他国や他の通貨との関わり合いはもちろんのこと、他のプロダクツ(投資対象)や、それらに影響を与える国際情勢や政治・経済などと絡み合って存在していますので、多角的かつ複合的に相場を見ていくことが必要になるわけです。
より簡単に言ってしまえば、物事を一面から捉えるのではなく、いろいろな角度から見ることが大切だ、ということ。ごく当たり前なことだと言えます。
英語
つたない英語をしゃべる私ですが、たまには、仕事上で海外と話す機会があります。その結果、感じたことは、「英語はもう国際共通語になっており、上手い下手にかかわらず、英語をしゃべるなり、書くことによって、世界が広がる」ということでした。
ある米系証券のエコノミストから聞いた話ですが、こんな話があります。
その証券会社から各国の顧客向けに、レポートを日々送られています。驚いたことに、日本の顧客向けのみ日本語に訳されたレポートが送られ、それ以外の国々にはそのまま英語で送られているそうです。
これを聞いて、日本人の英語はじめ外国語への拒否反応は尋常ではないと思いました。
しかし、やはり英語が苦手とされていたタイでは、ここおおよそ30年の間に英語教育に力を入れ、今や、ほとんどの人が英語をしゃべるようになっています。また、EUやECBでの共通言語は英語ですから、ポーランド人のトゥスク欧州理事会議長にしても、イタリア人であるドラギECB総裁にしても、英語を使っています。
こんな状況ですから、英語の面からも、日本人は島国の中で孤立し、世界から取り残されてしまう恐れがあることを認識しておく必要があると思いました。
特に、為替相場では、英語での情報は、日本語による情報よりも早くそして多く、無視できません。PCやスマホで、簡単にトレードできる時代、ある意味、国外からの情報がなくてもいいと思われる方も多いでしょう。
しかし、海外の情報がいち早くわかってこそ勝てる相場もよくありますので、英語もトレードのための大事な道具だと思います。
※画像は本文とは関係ありません。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら。