今年、これまでのドル/円については、年間で見ると、実にシンプルで、ほぼ一本調子で下げてきています。今のところ、高値が1月29日の121.70、安値が6月24日の99.00となっており、22円70銭の下げで、結構な下げとなっています。
なぜこんなに下げたのか、その一番大きな原因は、原油価格の大幅安でした。
原油価格の大幅安が相場に与えた影響
日本は、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所での大事故によって、国内の原発がすべて稼動を停止したため、代替エネルギーとして液化天然ガスを大量輸入に踏み切り、これにより貿易収支は赤字に転落しました。
さらに、2012年にはアベノミクスも始まり、海外勢がそれをあおり、ドル/円は上昇しました。
ところが、2014年7月から原油価格が急落したことにより、2015年には、ドル買いとドル売りが拮抗。その後高値圏で膠着しましたが、同年暮れごろから反落に転じ、2016年6月には一時99円をつけ、22円強の下落となりました。
そして、今現在はどうかと言えば、8月26日のジャクソンホールでのイエレンFRB議長の早期の利上げが示唆されたことにより、いったんドル高にはなっていますが、それが実現するかどうかは、今のところ定かではありません。
今回のドル高の主役は?
今回のドル高の主役は、米系ファンドと思われます。彼らは、今年は、2月のドル売りでもうけた以外は、ドル金利上げ、円金利下げに賭けてはやられています。どうも、彼らは情報不足になっているように感じられます。
彼らは、これまで、例えば、日本の金融機関や、通貨当局などと密にコンタクトを取り、抜群の情報力を持っていました。ところが、コンプライアンス(法令順守)が日本国内でもかなり厳しくなったことによる情報収集能力の低下に悩まれているものと考えられます。
そのため、7月も日銀によるヘリコプターマネー導入等を吹聴するなど、まことしやかに、噂されましたが、国内の金融機関や機関投資家からは賛同を得られず、そこへ黒田日銀総裁からも、「ヘリコプターマネー導入の必要性も可能性もない」との発言があり、投げさせられています。
今回のイエレン発言の解釈にしても、過剰は反応ではないかと思います。特に、米国の利上げ問題は、既に2010年頃から、話に出ていたものが、ここに来てまた話題になっていますが、相場の材料としては、もうステール(stale/古い)だと思われ、マーケットの反応も素直ではないものと感じられます。
ですので、利上げが決定されても、為替は、ほどほどの反応に止まるものと思われます。
今後のドル/円の動きはどうなる?
それよりも、長いチャートを見ていますと、紆余曲折はあっても、いずれは円高になるものと思われます。なぜなら、2012年~2015年の間の環境とは、かなり違ってきていると考えるからです。
どう環境が変わったかと言えば、貿易収支が赤字から黒字転換しているので、ドル買いよりもドル売りが出やすくなっていることがあげられます。つまり、貿易収支からのドルの下支えはなくなっているということです。
また、さらに、原油価格の低位安定が、まだ続くものと思われ、輸入額も増えても限られるだろうと予測しうるからです。
現在、相場は、やや円安に戻しています。この原因は、最初にご紹介したジャクソンホールでのイエレン発言により、日米金利差拡大が材料になっているものと思われます。ただし、あまり過度に期待しないことが良いようと感じます。
特に、日本勢は、既に追加緩和への反応は鈍化してきており、それほどの反応は期待できないものと思われます。
それよりも、ステール(古い)になっている米国金利動向には相場が素直ではなくなっているだけに、警戒が必要です。今の米国金利の反応を見るには、非常に安定しているニューヨークダウが何かを教えてくれるように思います。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。