人の行く裏に道あり花の山。

私の好きな言葉です。

利益を得るためには、他のマーケット参加者と逆の行動をとったり、注目を集めていないことに注目したりするということが大事だということです。これは、実際には勇気のいることでもありますが、相場を生き抜いていく上では、とても大切なことだと思います。

最近、この言葉を地(じ)で行くようなことがありました。

英国民投票で大騒ぎしている中、ソロス氏が取った行動

6月23日にEU離脱・残留を問う英国民投票が、世界中の注目を集め、それとともに、多くのマーケット参加者がポンドマーケットに参入し、まさに、世界中が注目しました。

ところが。翌24日、米系ファンドの象徴とも言えるジョージ・ソロス氏は、ドイツの最大手行であるドイツ銀行の株を大量に売って攻めました。このため、ドイツ銀行株は上場来最安値まで下落することとなりました。

これは、米FRBによるストレステスト(※)で、昨年に続き今年もドイツ銀行は不合格になることを見越したものでした。

(※)ストレステスト:銀行の健全性審査のこと。金融市場での不測の事態が生じた場合に備えて、パニック状況に金融機関の運用損失程度や損失回避策をあらかじめシミュレーションしておくリスク管理手法

一説には、このドイツ銀行株で、ジョージ・ソロス氏は、110億円余りをもうけたもようです。

まさに「人の行く裏に道あり花の山」を、米系ファンドの大御所、ジョージ・ソロス氏ご自身がやったことになります。

なお、皆が、英EU離脱国民投票はいかに?と大騒ぎしていることには、我関せず、その虚を突いたジョージ・ソロス氏の大勝負には、正直見事としか言いようがありません。

しかも、ご本人は、御年85歳で、このアグレッシブさ(積極さ)ですから、若輩者の私など、本当に頑張らなくてはならないと痛感しました。ジョージ・ソロス氏のような柔軟さや胆力は、過去からすごいものがありました。

私が、ニューヨークで勤務していた頃、例のジョージ・ソロス氏とBOE(イングランド銀行、英中銀)とのポンド/ドルでの対決があり、その一部始終をブローカー(仲介業者)の唱えるプライスを聞きながら、実体験したことがありました。

これは、ポンド/ドルが、実態よりも過大に評価されている矛盾を、ジョージ・ソロス氏によって突かれた相場でした。

BOEは、全ブローカーに、ワンショット(1回あたり)5,000万ポンドでないと受け付けない買いの指値を入れていました。当然、商業ベースのもっと小さな取引もあるわけで、これは、ワンショット5,000万ポンドのプライスより、安い価格レベルで、取引されており、相場は二重構造になっていました。

そして、ジョージ・ソロス氏は、このワンショット5,000ポンドの買いを売っていきました。

この攻防戦が、1週間ほど続いたある日の午後3時、全ブローカーにあったすべてのBOEの買いは、消えました。つまり、BOEがジョージ・ソロス氏に負けた瞬間でした。

この瞬間、ポン/ドルは崩落し、6カ月程で6,000ポイントの急落を見ました。

このようにして、花の山をいくつも築き上げてきているのですから、相場に携わる者として、同氏に学ぶ点は多いと言えます。

また、ジョージ・ソロス氏のすごいと思うのは、過去にビッグプレーヤーと言われる人は多いですが、ソロス氏ほど、長く生き残っている人は、あまり見たことがありません。よほどハングリーな人なのか、あるいは自分を律してきた人は知りませんが、ただ者ではないことだけは確かです。

なお、ドル/円で、2012年から2013年のアベノミクス期待相場で、大いにドル買いでもうけた同氏は、今年の2月には、ドル売りに転じていたことを、忘れてはならないと思います。

既に、アベノミクスへの期待は失望に変わっている可能性があるからです。

※写真は本文と関係ありません

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら