先週末の英国のEU離脱ショックに伴い、ドル/円は急落し、一時100円を割り込み、99円まで下落しました。
日本の通貨当局である政府・日銀からは、急激な円高には断固たる措置を取ると、直ちに市場に警告が発せられました。
また、よく当局から耳にされるのは、円高が投機筋によって引き起こされているという言葉です。確かに、投機筋によって、引き起こされることも全くないわけではありませんが、実際のところは、投機筋の失敗によって起きているというところが、本当のところだと思います。
政府・日銀のドル買い介入には、2種類あります。ひとつは買い上げる介入、もうひとつは買い支える介入です。
買い上げる介入とは、介入がスタートすると、どんどん買い上げていく介入で、これは世界的にも多い介入の形式です。介入が出ていることを広く知らしめる(アナウンスメント効果)ことで、比較的少ない介入額で効果的な介入になることが多いと言えます。
一方、買い支える介入というのは、ある一定レベル以下には、下げさせないために、市場に買いオーダーを並べる(複数のブローカーに、買いオーダーを入れる)ことにより徹底的に買いさせようとします。
場合によっては、覆面介入と言って、介入が入っているかどうかを、公にせず、静かに介入する場合もあります。ただし、これは、「介入をやったかどうかがわからずでは、介入の意味がない」という意見が外国人からよく出ます。彼らにしてみれば、介入したことを広くマーケットに知らしめてこその介入なのに、出たかどうかも分からないでは、何を意図しているのかわからないということでした。
円高は投機筋によって引き起こされている?
さて、本題に戻りまして、円高が投機筋によって引き起こされているのかについて、考えてみたいと思います。
買い介入には、買い上げる介入と買い支える介入という2種類があると申し上げました。
買い上げ、買い支え、いずれにしましても、1回目の介入は効きます。これは、下値を試しているときだけに、とうとう出たかということで、どれぐらいの反応になるかわからないこともあって過剰反応をするからです。ある意味では、通貨当局に敬意を表しているとも言えます。
しかし、買い上げでも買い支えでも、2回目からは、市場も、介入が入ることを前提で相場を見るようになりますので、1回目ほどは、効かなくなってきます。それよりも、介入が入るのを見越して、自分たちも介入が入ったときに、便乗してドル買いに出るようになります。ただし、便乗買いをするようになると、ドル買い介入が出ながら、銀行もまたドルを買うため、マーケットのポジションは、ドルロングになってしまいます。
それでも、介入で買い続ければ、下がらないものを、当局が買いの手を緩めると、便乗したマーケット参加者のロングは買い支えがないため、崩れだし、新たな下げを生むことになります。
買い上げと買い支えでは、どちらか下げやくなるかと言えば、買い支えには大量の資金が必要で、かなりの額を通貨当局が買っていることは察しがつき、その額に合わせて便乗買いもかなり出るため、さすがの通貨当局も買い支えきれなくなって、買いを引っ込めてしまうと、悲劇になります。
便乗組の、心の支えだった当局がいなくなったために、阿鼻叫喚のロングのロスカット大会となります。これで、有名になったのは、昨年1月15日にスイスショックを引き起こしたスイス国立銀行(スイス中銀)で、そのときは、上記のユーロ/スイスフランの買い支え介入でした。
また、2003年~2004年に掛けての政府・日銀の大量介入の場合は、買い上げと買い支えが両方出て、要は、介入額が大きすぎて、だれも、当局に立ちむかわなくなりました。そして便乗買いがかなり出たあと、当局は買い介入をやめたため、スイスショックほどではなかったですが、便乗したマーケット参加者のロングの投げで、急落となりました。
このように、よく投機筋のドル売りが相場下落の犯人にされますが、多くの場合は投機筋は犠牲者だと言えます。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。