とうとう、23日木曜に英国のEU離脱・残留を問う国民投票がある週となりました。

先週木曜に起きた残留派のジョー・コックス英下院議員の射殺事件で、両派キャンペーンをいったん中断したことが、英国民に冷静に考える時間を与えたものと思われます。

ただし、そうは言っても、実際に国民投票が開票されるまでは、予断を許しません。

この件に関わる、外国為替市場の動向は、先週、この国民投票に対するリスク回避から、円が買われ、106円台から一時103.56まで円高が進行しました。

ドル/円日足

リスク回避の円買いの起源

なぜ、英国のリスクで円高にならなければならないのかと疑問をお持ちになる方も多いかと思いますので、リスク回避の円買いの起源をお話ししてみましょう。

それは、2008年のリーマンショックの時でした。

米系大手証券会社は、リーマンショックにより株で多大な損失を被りました。

この損失を穴埋めするために、当時盛んに行われ、また大きな収益を上げていた、高金利通貨買い低金利の円売り、いわゆる円キャリートレードを株と合わせて手仕舞って(合わせ切り)、損失を薄めようとしました。

この決定により、豪ドル/円、NZ/円、ポンド/円などが、叩き売られる(円買い)こととなりました。

2008年9月リーマンショック 豪ドル/円

たとえば、豪ドル/円で言えば、リーマンショックによって、約45円もの円高となりました。

この相場を実際に見ていましたが、まず、認識しておかなければならないのは、豪ドル/円というマーケットはなく、この買い持ちのポジションを手仕舞うためには、豪ドル/円を構成するドル/円と豪ドル/米ドルに分解し、それぞれを売らなくてはなりません。

もちろん、ドル/円に関しては、市場流動性(交換のしやすさ)も十分あり、それほど手仕舞うことは難しくありませんでした。

問題は、豪ドル/米ドルで、これは、市場流動性がただでさえ低いところに、パニックですからマーケットは薄く、投げたくても投げられないまま相場は下げ、やっとのことでカバー(手当て)できたというありさまでした。

このリーマンショックで、豪ドル/円の場合、短期間で45円もの円高となりました。

それが、きっかけとなって、何か事が起こると、リスクを回避するために、比較的に安全とされる通貨、円を買う動きが出るようになりました。

これを、リスクオフと言います。

英国のEU離脱・残留による影響は?

今回の英国民投票についても、同様にリスクを回避する円買いとなりました。

従って、23日直前までは、円買いが出やすいものと思われます。

それでは、23日当日はどうなるかですが、残留が決まれば、リスクが回避されたとして、とりあえずは、円売りが殺到し、ドル/円で107~108円近辺まで、一時的にせよ反発するものと見ています。

しかし、離脱となると、さらにリスク回避の円買いは強まり、ドル/円で100円割れを見ることになるものと見ています。

こうなると、G20で、ルー米財務長官から指摘された「今のドル/円は、秩序あるドル安」が秩序を失ったと捉えられ、政府・日銀による為替介入の出動を見ることになるものと見ています。

最初の介入は、それはそれなりに効くと思いますので、結構上がるものと思われますので、あまり舐めてかかると、痛い目に遭う可能性がありますので、警戒が必要です。

しかし、買い上げる介入は、介入自体を嫌がっている米国に遠慮するものと思われ、買い上げはほどほどで、あとは買いを入れて下げさせない防戦買いになるのではないかと思います。

防戦買いに出たら、他のマーケット参加者も、従順に日銀と同様にドル買いに出ることが予想され、そのために、マーケットのポジションが大きくロングになり、結局重くなって買い支え切れず反落し、一段下げを見ることになる可能性があります。

尚、残留で、いったん上がったドル/円相場は、結局はまた下がってくるものと見ています。

なぜなら、アベノミクスの失敗を狙う米系ファンドの存在もありますし、また、貿易収支の黒字化でドルの買い支えもなくなり、また、ここ2年間のうちに機関投資家筋の為替ヘッジなしの外債・外国株式投資が、円高になり、かなり厳しくなっており、いずれどこかでは、ヘッジ売りに出る可能性などの国内事情がある以上は、ドル/円は遠くない将来また下がるものとおもわれます。

年内に、95円もありえるかと見ています。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら