先週のG7での「リーマンショック前夜に似ている」発言や、この週末の消費増税を2019年10月まで2年半先送りするとの意向表明など、ここのところの安倍首相の発言には、違和感を禁じ得ません。
こうした唐突な意志表明に加えて、実際、四半期のGDPもマイナスであったり、プラスであっても低水準であったり、更に消費者物価指数も目標の2% に遠く及ばず、それでも、強引にアベノミクスはうまく行っていると言い切るところに、むしろアベノミクスは失敗しているのではないかと思わずにはいられません。
そして、これでは、米系ファンドにつけいる隙を与えるだけではないかと思います。
米系ファンドのアベノミクスに対するスタンスは明らかに変化してきています。
2012年後半から始まったアベノミクスに当たっては、この政策に完全に乗り、2015年半ばまでの間の50円弱のドル高円安相場では、莫大な利益を上げました。
特に、思い出されるのは、2012年のクリスマスです。
欧米人にとって、クリスマスは日本人の正月に対する感覚以上に特別なものであり、休むことが当たり前です。
しかし、この年は、違いました。
ファンド勢は、クリスマス休暇返上で、マーケットに臨み、特に12月25日クリスマス当日には、日足のロウソク足チャートに窓を開けて東京がオープンするほど猛烈な買い上げでした。
また、米系ファンドの代表格であるジョージ・ソロス氏も、ドル買いに出て、2012年後半から2013年前半の間で10億ドル(約1100億円)の利益を上げたもようです。
これだけ、期待をもってアベノミクスはマーケットに迎えられましたが、その後、成果が上がらないことに、米系ファンドのスタンスは変わりました。
特に、2016年に入り、2015年の第4四半期のGDPがマイナスになってから、態度はひょう変したと思われます。
2016年1月末に、日銀はマイナス金利の導入を決定しました。
確かに、発表当日は、3円ぐらいの上昇を見ましたが、週明け後の月曜日から、米系ファンドは、強烈にドル/円を売り浴びせ、約10日間で、10円のドル安円高となりました。
そして、この間に、ジョージ・ソロス氏も売りに回っていたことが観測されています。
今年になってからの米系ファンドのトレーディング・スタイルは、実に堅実なもので、強烈に売ってきますが、下がれば、しっかりと買い戻し、また戻りがあれば、売り直すというものです。
正直なところ、あたかも、これからの本番の足慣らしをしているように見えてなりません。
先週金曜日に、イエレンFRB議長から早期の利上げが示唆されたこと、そして週末に出た消費増税延期の首相の意向を受けて株が高く始まることが予想されたこともあり、目先はドル高円安にはなっていますが、これはあくまでも、一時的なものだと思います。
アベノミクスの失敗が、更に確認されれば、米系ファンドのドル売りは再開するものと思います。
米系ファンドの真骨頂は、国・地域の政策やシステムに矛盾があれば、そこを徹底的に突いてくる点です。
ジョージ・ソロス氏が、その名を世界にとどろかせたのは、1992年に、実際より過大に評価されていた英ポンドを突いて、英中銀であるイングランド銀行と対決し、英ポンドを売り浴びせて、英ポンドは6000ポイントも急落させて勝利したことでした。
この他にも、複数のファンドによって仕掛けられたアジア通貨危機も有名です。
つまり、矛盾があれば、容赦なく攻め立ててくるのが米系ファンドです。
ここで、今、一番危惧しているのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含め生保など機関投資家や銀行のポートフォリオです。
ここ2年ぐらいの間に、彼らは運用難となっていた円債から日本株、外債、外国株に配分を移しました。
問題は、去年まで、ドル/円相場が円安気味であったこともあり、為替リスクを回避するための為替ヘッジ(ドル売り)を掛けていない点です。
これで、アベノミクスの失敗を突いて、米系ファンドがドル売り攻勢が強めれば、機関投資家や銀行は多大な為替損失を被ることになりかねません。
それだけに、今後のアベノミクスの行方には、注視していく必要があります。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。