2015年の訪日外国人観光客数が1,974万人だったことから、政府は2020年の目標を年間2,000万人から4,000万人に倍増させることを決めました。さらに、2030年には6,000万人を目指すとしています。

確かに、ビザの発給要件を緩和するとか、訪日外国人が訪れる主要施設すべてでクレジットカードを使えるようにするなど、確かに外国人観光客誘致の努力は見られます。

ただし、忘れてはならないことは、為替レートに敏感な外国人旅行者だからこそ、今の円安に乗って日本を訪問している点は、無視できません。

日本の産業全体が円安頼みに

話は変わって、東証1部、2部上場のメーカー143社の約6割が2016年3月期決算の期初想定為替レートを1ドル=115円に設定しています。ちなみに、1年前の期初想定為替レートは100円でしたから、大幅に円安にシフトしています。

さらに、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も加え、生保など機関投資家や銀行が、ここ2年程の間に、運用利回りの出なくなっていたにもかかわらず投資配分がこれまで過大だった円債から、国内株、外債、外国株へシフトしています。

特に、外物(そともの、外債、外国株)の運用にあたっては、当時の為替の地合いが円安傾向であったことから、為替のヘッジ売りをせずに運用してきました。

つまり、産業全体が円安頼みになっていることにお分かりいただけるでしょう。

今年に入り円高が進行

しかし、今年に入り、円高が進行してきています。

ドル/円 日足

110円を割りこむに至って、とうとう、政府筋からトークアップ発言(要人発言によって相場を持ち上げようとする)が、麻生財務相、菅官房長官、石原経済再生担当相から続きました。

ところが、この4月14日、15日にワシントンで開かられたG20(20カ国・地域、財務相・中央銀行総裁会議)で、麻生財務相は「最近の為替市場での一方的に偏った動きに強い懸念を有している」と伝え、円高に警戒感を示しました。

ルー米財務長官は「最近は円高が進んだが、為替市場の動きは秩序的だ」と述べ、日本政府が円安誘導策に動くことをけん制しました。さらに、「日本は通貨安競争をしないというG20の約束に同意している」と指摘して、日本が円売り介入などに動くことを、さらに強くけん制しました。

つまり、円高進行を懸念する日本と、ドル高局面が米景気の下振れ要因になることを懸念する米国の間で思惑の違いが鮮明になりました。この思惑の違いに対して、月曜のシドニータイムから、マーケットは、早々にドル安で反応しています。

つまり、日本政府も含め産業界もまた円安におんぶに抱っこになっている現状で、もし肉食海外勢にその弱みを見破られたら、どういうことになるかは、あえて申し上げるまでもないことだと思います。

米系ファンドは、今年に入り既に動き出しています。しかも、先週末もまた、売りに出ていたもようです。いずれ来るとかといった悠長な問題ではありません。

こうした時、政府筋は、投機筋による仕手と言いますが、米系ファンドは、その国・地域の政策やシステムに矛盾があれば、そこを突いてきます。決して、問題のないところを攻めてくるわけではありません。

ドル/円 月足

相場が下がる時、どこまで下がるかという議論がよくなされますが、そうして水準を予想すること自体が、思考を膠着させて、さらなる下落を生みます。むしろ、とことん下げを見ることで、相場の底が逆に見えてくるものです。

今回の下げ相場は、ひょっとすると、とんでもないほどの下げになるかもしれないと正直思っています。

ドル/円の年平均の値幅が25円です。今年のドル/円の高値は、1月29日の日銀のマイナス金利導入時の121.70です。そこから、25円下げるとするなら96.70、丸めて95円となることを忘れてはならないと思います。しかし、その程度ですめば良いのですが……

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら