正月になると、ある出来事をいつも思い出されます。

ロンドン勤務を終え帰国した初めての正月の三が日も終わり、仕事始めの日のことでした。

日本の企業らしく、仕事始めにあたって、新しい年の業績祈願に部長以下ディーラー一同、マイクロバスを仕立て、ディーリングですから、勝負の神様が奉られている神社を三つ程回りました。

その時の相場は、年末からドル/円が下落を開始しており、仕事始めの日も、早朝のオセアニアマーケットで、さらにドル/円は下落し、ディーラー各自も年末からショートポジションをキャリー(保有)していましたから、マイクロバスの車中は和気藹々とした雰囲気でした。

ところが、最初の神社のお参りが終わり、マイクロバスに戻り、レートをチェックした頃から、様子が変わってきました。

ドル/円が反発を開始していました。

残る二つの神社を巡るに連れて、ドル/円は、加速度をつけて上昇していき、車中は重苦しい雰囲気が漂いました。

そして、ディーリングルームに駆け戻ると、ドル/円はさらに上昇しており、既に各ディーラーのショートのポジションの持ち値を実勢値は超していて、全員がアゲンスト(不利)状態に陥っていました。

そして、仕方なく、ひとりやめ、ふたりやめと、ロスカットしていきました。

これは、決して偶然の災難ではなく、欧米の投機筋の年末年始の仕掛けが、筋書きどおりに展開したのに過ぎませんでした。

つまり、年末から欧米勢はドル/円を売り仕掛けし、薄いマーケットの中、さも下がりそうな形勢で越年させておき、さらに一段三が日明けのオセアニアマーケットで売り込んで、東京勢を売りでマーケットに誘い込んだところを、大きく買い戻して勝ち逃げたということでした。

そして、その後残ったのは、本邦勢のショートポジションばかりとなり、その損切り的ショートカバー(買戻し)が玉突き状態となって反騰したわけです。

このように、年末年始は、薄いマーケットを利用して欧米の投機筋が暗躍する相場ですので、十分警戒する必要があります。

そういうわけで、我らがチームの仕事始めのお参りのお賽銭(損失)は、それは半端なものではありませんでした。

確かに、ディーリング、言い換えればトレーディーングにたずさわる者として、どうか儲かりますようにと神頼みしたくなるのが素直な気持ちだと思います。

ただ、相場の神様に、多くの人間が同じ願いを掛けるためか、誰にも彼にもそう簡単に願いをかなえてはくれません。

それよりも、よくあるのは、相場は冷徹で、いくら善行を積もうとも、損する時には損するものです。

それは、相場が悪いのではなく、自分自身の思料や実力が未熟だと知るべきではないかと思っています。

相場は、次から次へと難題を突きつけますが、それをこなしていくことで、自分自身が成長していくものだと思います。

ですから、神頼みで、神様に願いを丸投げするのではなく、自分でできうる限りのことはやってみるという気持ちが大事なのではないかと思っています、

神頼みより、相場でなにより大事なことは、油断をしないということです。

いくら神頼みしても、脇を甘くしていては、折角勝ち得た利益を指の間からさらさらと漏らしてしまうことになります。

それだけに、常に身構えておくことが必要です。

身構えておけば、背中からバッサリやられることも、最小限に抑えられます。

つまり、相場に対するには、ある一定の緊張感を保つことです。

その緊張感を持ち続けることが疎ましければ、相場はやめた方が良いように思います、

相場には、そうした厳しさがあることは否定できません。