ユーロ/ドル相場の見方を、180度変えることにしました。

ユーロ/ドル 日足

その見方変更について現象面から申し上げれば、ユーロ/ドルは、いずれパリティー(1.0000、等価)と見てきましたが、そのわりに、1.0800の買いが執拗に出ることは否めないということがあります。

先週木曜、ECBが発表した金融緩和措置自体は予想を上回る規模で、ユーロ/ドルは売られ、一時1.0822まで下げました。

ところが、理事会後、ドラギECB総裁は、「一段の利下げは必要ない」と発言したことでマーケットは、ショートの買い戻しを中心に買いが強まり、1.1218まで、約300ポイントの反騰となり、多くの犠牲者が出たものと思われます。

リスク発生時の資金の本国還流「レパトリ」

そして、もっと大きなヒントは1987年に起こった、米ブラックマンデーと呼ばれる株の暴落時と同じような反応を為替相場が反応する可能性があるということでした。

ブラックマンデーの時、米株は暴落しましたが、ドルは最初こそ投機筋が売ってきましたが、その後、逆に上昇したということでした。 その理由は、米系証券が、アメリカの顧客から株の現金化を求められ、その手当のため外貨資産を売る一方、ドルを大量に買ったということでした。

そして、現状のドイツが、難民・移民のテロ活動を含む問題を抱えているのと同時に、ドイツ銀行の経営不安やフォルクス・ワーゲンの不正に伴う問題などを抱えています。

たとえばドイツ銀行が破たんするようなことになった場合、先に上げたブラックマンデー時と同じ様に、ドイツ国内での顧客からの株の現金化を求められ、その手当のために大量のユーロ買いに走る可能性があります。

これをレパトリ(レパトリエーション)と言って、リスク発生時の、資金の本国還流を言います。 このレパトリに伴うユーロ買いのため、ユーロは下がらず、むしろ上がる可能性があります。

ユーロ/ドル 週足

また、最近のユーロを見ていて思うのですが、下落を始めた2014年5月の1.39台から、安値1.04台をつけた2015年の3月までの一方的な下落なあとの、ざっくりと言って、1.05台~1.15台のレンジが、2015年から現在まで続いています。

今まで、これは、下落途上の踊り場だと思っていましたが、特にここ最近の1.08台の買いは引かず、よしんば突破するにしても、よほど、助走距離が必要だと思っています。従い、その点からも、ユーロ/ドルはいったん上がる必要があるのではないかと見ています。

このように、為替の世界で、相場が一方向に向かうには、資金のフロー(資金移動)が必要で、決して上がるべき下がるべきという精神論だけでは、一方向への動きは長続きはしません。

資金移動が止まっている要因とは

特に、ユーロ/ドルの場合、フローを作る大本は、投資家と呼ばれる人々で、彼らの方針によってユーロからドルへ、ドルからユーロへと、資金が一方向に動きます。

先に述べました、2014年5月から2015年3月までの一方向への動きは、まさにこうした投資家筋からのユーロ売りドル買いの流れができていたためだと思われます。一方、2015年3月以降、レンジ相場になったことは、つまりは、投資家が動いていないことを示しているものと思われます。

資金移動が止まっている原因としては、ここ何年か、ユーロ危機や、ギリシャ危機などが続いたことから、投資家のユーロからドルへの資金移動(ユーロ売りドル買い)も、既におおかた済んでいる可能性があるようにも思います。

ユーロからドルへの移動すべき資金がなければ、こうしたレンジが長引くことになる可能性すらあると思われます。

なお、投資家と呼んできましたが、具体的には、どのようなマーケット参加者かと申し上げますと、政府系ファンド、ペンションファンド(年金の運用機関)、そして中央銀行などです。

どれも、お堅い人たちであり、決定するまでは、慎重に検討を重ねる一方、動き出すと怒涛のように動き、そのため、マーケットに大きなフローを作ります。特に、ユーロ/ドルで散見されます。

なぜなら、世界一の通貨ドルと第二位も通貨ユーロが、それぞれに資金移動するだけの流動性を持っているのは、お互いでしかないからです。それが、既に、ユーロ圏のいろいろな問題から、ユーロからドルに大きく移動してしまっているというのが現状だと思います。

つまり、ユーロ売りドル買いは満杯なのに対して、ユーロ買いドル売りはガラガラだと思われます。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら