国民年金、厚生年金といった公的年金の運用機関であるGPIFは、この4月からの新5カ年中期計画によって、これまでの、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%をめどにしていた運用比率を、いずれも均等に25%としました。
これにより、外国債券はこれまでの15%から25%に引き上げられることになり、実際的にも外国債券の買い増しとそれに伴うドルを中心とした外貨買い円売りが発生することになります・
実際、5月11日月曜は、かなりしっかりとしたドル買いが出ていましたが、私は、その買いはGPIFではなかったかと考えています。
当初、この上げをショートの買い戻しかとも思いました。
確かにショートの買い戻しも中にはあったとは思いますが、東京早朝からニューヨーク午後まで買いは続き、しかも上昇角度が買い戻しのジリ高よりも鋭角的で、それ以上に大量の買いが新規に出ていたと思われたからです。
GPIFは、総資産額が2019年末現在で169兆円あって、今までその15%を外債で運用してきました。つまり、169兆円の15%ですから、25兆円が外債運用だったわけです。
これをこの4月からの新5カ年中期計画で25%に拡大するということは、42兆円にするということです。外債の運用の純粋な増加分は、42兆円-25兆円=17兆円になります。
17兆円は、1ドル107円としてドル換算で1,589億ドル相当の外債(主に米国債)を買うということになります。ということは、新しい運用枠を満たすためには、ドル中心にかなりの円売りをしなければならないということです。
1,589億ドルというのはディーラー的な言い方をしますと、1本が1百万ドルですから、158,878本ということになり、これは相当大きな金額だということを個人的には実感しています。
つまり、通常のインターバンクでは、50本(5千万ドル)とか100本(1億ドル)が大口とされていますから、158,878本という金額がいかに巨大なものかということです。さすがは、クジラの異名を持つGPIFならではのことです。
5月11日月曜は5,000本(50億ドル)ぐらい買ったのではないかと想像しますが、158,878本買うためには、たとえば1回に5,000本買うとしても、単純に考えれば、それを32回やらなくてはなりません。
その総額を分けて買うにしても、それでも1回あたりの金額は相当大きく、買いで待っているだけでなく、買い上げもしないと買いきれるものではありません。
いったん買い上げてしまうと、売りが逃げてしまいますから、しばらく買いをやめて、また下げてくるのを待って、そして買いを再開するというやり方をするしかないのではないかと見ています。
したがって、こうした大きな買いが今後断続的に繰り返し出る可能性があると個人的には見ています。
実際、日足で見ますと、4月も5月も、月初め(5月は連休明け)にドル/円が急上昇しているのも、GPIFが関係しているのではないかと見ています。
それでは、158,878本の買いが出た場合、ドル/円はどれぐらい上がるかですが、機関投資家の代表格の生命保険会社(生保)の場合は、上がるとヘッジ売り的に売ってきましたので、上げにも限りがありました。
これに対して、GPIFは基本的にヘッジ売りには消極的と見ています。なぜなら、何しろ巨体のため、ヘッジ売りをしてしまうと、それによってもたらされるドルの急落で、自分で自分の首を絞めかねないからです。
ですので、158,878本の買いが相場の過度の変動を抑えようと慎重に買いが行われたとしても、ドル高は免れないのではないかと見ています。
段階的に、112円、114円台後半といったレジスタンス(上値抵抗線)を試していくことになるのではないかと見ています。