スイスショックとは、2015年1月に起きた3,950ポイントにも及ぶユーロ/スイスフランの大暴落事件です。
2011年9月、SNB(Swiss National Bank、スイス国立銀行、中央銀行)は、ユーロ危機からユーロからスイスフランに逃避してくる資金を抑えるため、基軸通貨となるユーロ/スイスフランを1.2000で徹底的に買い介入して固定し始めました。
この防衛ラインは3年余り続きましたが、2015年1月にECBが追加緩和をしようとしたことからスイスフランに大量の資金が流入し、抑えきれなくなったSNBは、とうとう介入を放棄したため大暴落となり、多くの企業や個人投資家は、甚大な損失を被りました。
このときのSNBは、マーケット参加者に対しての配慮に欠けていたと思います。事前連絡があれば、これほどまでの犠牲を払うことはなかったのではないかと、今でも思います。その後、水準を1.0500に換えて、SNBは改めてユーロ/スイスフランの買い支え介入を再開しました。
そして、5年余りがたった今、またしても、ユーロ売りのプレッシャーが高まっています。
たとえば、4月23日にEU首脳テレビ会議があり、2兆ユーロ規模の経済復興計画案が協議されました。新型コロナウイルスの打撃が域内で最も大きい南欧諸国の復興を後押しする計画案でしたが、資金の出し手となるドイツ、オランダ、北欧はかなり抵抗し、必要性では合意したものの、復興対策は合意できなかったときも、ユーロ売りスイスフラン買いのプレッシャーがかかりました。
また、5月5日には、ドイツの憲法裁判所が、ECBが国債購入の必要性を示さない限り、ドイツの中央銀行であるドイツ連銀は国債購入を停止しなければならないとする判断を示したことから、再びプレッシャーが強まりました。
つまり、1.0500の下限近くに張りついてきています。
ですので、5年前と同じような状況になってきているうえに、もちろん、SNBは今回もまた、唐突に介入放棄にでる可能性は十分にありますので、厳重な警戒が必要です。
スイスフランも、円と同様に、リスクが発生したときに買われる安全通貨ではあります。ドル/円の場合は、生保やGPIFといった機関投資家の外債投資からの円売りが大量に出ることでドル/円が底堅いのに対して、ユーロ/スイスフランの場合は、スイスフラン売りは中央銀行に頼らざるをえないところに、もろさがあると言えます。
そのため、ユーロ/スイスフランを買い支えきれなくなれば、SNB(中銀)もなすすべはなく、介入放棄に至るのだということです。ですから、安全通貨というよりも、むしろ危険通貨と言えます。
前回2015年1月のときには、暴落自体、何分という単位でしたので、本当に逃げられず、FX会社何社かは、まさに瞬間蒸発するところがありました。個人投資家にしても、証拠金取引の強制ロスカットでは間に合わず、想定をはるかに超す損失を出しました。
そうした甚大な被害がでることは、SNBも十分に事前に予想できたと思いますが、そのへんがスイス人だと思います。スイス人は観光などではフレンドリーですが、実際は排他的な国民性を持っており、それがこうしたところで表に出るのではないかと考えています。
正直申し上げて、SNBのやり方はマーケット参加者を軽視しており、受け入れることはできません。中央銀行がやってはいけないことだと思います。そういうわけで、スイスフランとは、できるだけ距離を置くことにしています。