例年、国内主要生命保険会社(生保)各社は、4月に新年度を迎えると、4月中に新年度方針を策定して4月後半に方針を公表し、5月以降実施します。この生保各社の方針が、為替相場に少なからず影響します。そういう意味で、毎年方針が決定するこの時期を、注目しています。

昨年、2019年度の場合、特に米国債の利回りがまだ2.50%前後と結構良かったため、生保各社は外債運用に大きくシフトしました。一般的な外債運用は、外債購入時に為替ヘッジをするヘッジ付き外債ですが、ヘッジをつけると利回りが大きく低下してしまうため、昨年の場合はオープン外債が主流でした。

オープン外債とは、外債購入時に為替ヘッジしない外債運用です。しかし、ヘッジを全くしないわけではなく、為替相場が下がれば買い、上がれば売るということを繰り返します。こうして得た為替益で、利回りを改善させてきました。

生保による、特にドル/円での大量の押し目買い、戻り売りによって、ドル/円相場は膠着化しました。

  • ドル/円 月足

これは、昨年のドル/円の年間の値幅が1973年の変動相場制移行後で最小となった大きな原因のひとつとなりました。

そして、今年の4月末近くになり、国内主要生命保険会社の2020年度の運用方針が公表されました。結論から言えば、外債から日本国債へ運用をシフトするもようです。つまり、新型コロナウィルスの感染拡大による景気の大幅後退を受け、海外の中央銀行が金融緩和に踏み切った結果、外国債券の利回りが低下して日本国債の魅力が相対的に増したためです。

生保各社は新型コロナウィルス感染拡大の環境下でリスクを抑えた運用をしようとしています。しかし、日本国債は、10年債の利回りが直近マイナス0.025%では運用もなにもないと思われましたが、20年物(現在0.31%程度)、30年物(現在0.41%程度)で運用するもようです。

さらに投資分散も進め、株式や不動産での運用も増やすようです。これにより、生保は2019年度のようなオープン外債を取り組んで、為替相場では「下がったら買い、上がったら売り」を繰り返す為替操作をすることは大幅に減少する見込みで、為替相場への影響は、かなり後退するものと思われます。

と思っていたところが、次の大きな存在が表れてきています。それは、国民年金、厚生年金の運用をする公的運用機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。

GPIFは、4月からの新5カ年中期計画で、外債運用をこれまでの全体に占める割合19%から最大31%まで引き上げていますので、その意味では、下がれば買いは、生保に代わって今度はGPIFから出る可能性はあります。

GPIFは、世界最大の年金基金だけに、扱う金額は桁違いだけに、為替相場への影響は無視できず、そういう意味では、相も変わらず、膠着した相場が続く可能性はあります。まさに、ドル/円相場は「一難去って、また一難」というところです。

ただし、相場とは、どれだけ大量の買い、あるいは売りがあっても、それを突破していくことは、過去にも何度もありました。

「トレンド イズ フレンド」という言葉がマーケットにはあります。大事なことは、トレンド、つまり方向性を正しく掴むということだと思います。それがわかっていれば、巨大ペンションファンド(年金運用基金)といえども、恐れずに足らないと思います。

むしろ、利回りが0.60%まで低下した米国債10年物を、為替リスクを負って本当に大量に買うのだろうかといぶかしく思っています。