新型肺炎の感染拡大によって混乱する金融市場の鎮静化のため、FRBは3月3日、やっと0.5%の緊急利下げを発表しました。

こういう時、1987年に起こった米ブラックマンデーを思い出します。

ドイツの中央銀行であるブンデスバンクが、米政府の制止を振り切って利上げしようとしたことから、米独の不協和音におびえたニューヨーク株式市場は大暴落となりました。

その時、まだ就任して間もないグリーンスパンFRB議長が、間髪入れずに市場に大量の資金供給をしたため、株の暴落は短期間に沈静化しました。

この大量の資金注入によって、米国債の価格はロケットのように急上昇(利回り急低下)しましたが、株の暴落でこんなに債券価格が急騰するとは夢にも思いませんでした。

このグリーンスパン議長の手腕に、マーケットは畏敬の念を持ち、またその後も同議長はFRBが今後とろうとする政策について、前もって必ず市場に説明したことから、市場は従順に付き従いました。

そして、市場は、同議長をマエストロ(巨匠)と讃えました。

さて、今回の新型肺炎騒動で、2月最終週、ニューヨークダウが暴落していく中で、パウエルFRB議長が声明を出したのは、その週も終わりの金曜でした。

黒田日銀総裁の談話にしても、やっと週を越えて3月2日の月曜のことでした。あまりにも、機動力に欠けています。マーケットがおびえたら、牛の群れの暴走のようになります。早く食い止めないと、手が付けられなくなります。それができない中央銀行たちに不安を感じます。

量的緩和に低金利で、政策の自由度がなくなって、気分はがんじがらめになっているのかもしれませんが、今、リーマンショック級、あるいはそれ以上の脅威に世界はさらされていると思います。

それだけに、圧倒的な機動力をもって対処することが、各中央銀行のみならず各国政府に求められていると思います。

ところで、ブラックマンデーの時、為替相場はどうだったかと言いますと。株の暴落で、まずはドル売りになりましたが、そのうちに猛烈にドル買いが強まりました。

なぜなら、米大手証券会社が株で大きな損失を出したため、外株・外債などの対外資産を売却して米国に戻しドルに換えるためドル買いが猛烈に出たためでした。

リーマンショックの時も、米大手証券が株の損失を穴埋めするために、円キャリートレード(高金利通貨買い円売り)を手仕舞い、猛烈な円高になりましたが、こうした米国株が絡んだ大事件が起きたら、米系大手証券がどう動くかを読むことがカギです。

今回も、2月最終週の1週間の米株の下げ幅は3583ドルと、リーマンショック直後の2008年10 月6~10日の1874ドルを上回って過去最大となっています。

それだけに、米系大手証券が、株の損失をどう穴埋めするのかが注目されます。

今回、一つ顕著なのは、ユーロ/ドルの動きです。

  • ユーロ/ドル 日足

ユーロ/ドルは、2月3日から一本調子に下げてきたのが、2月21日から大幅反転しています。

そして、ダウの日足をご覧ください。

  • ダウ 日足

2月3日はほとんどユーロ/ドルの動きとは関係ありませんが、ユーロ/ドルが反発を始めた2月21日に、ダウは下落をはじめ、加速度をつけて下げていき、それに呼応するかのように、ユーロ/ドルは急上昇しています。

つまり、米系大手証券の株での損失は、ユーロ/ドルのショートの買い戻しによる利益によって穴埋めされた可能性があります。

これを、合わせ切りと呼んでいます。

そして、2月21日からのドル/円の急反落も、米系大手証券が関係しているのかもしれません。

  • ドル/円 日足

2月3日から、米系大手証券は買い仕掛けをしたものと思われます。

110.00近辺の抵抗を突破するのにかなり時間をかけましたが、2月19日に上方向に突破し、2円上昇、しかし、21日からの米株暴落で手仕舞いを強いられたものと思われます。

  • 水上紀行(みずかみ のりゆき)

    バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。 詳しくはこちら