FXに携わって36年になります。

それでも、まだ飽きずに好きでいるということは、我ながら、余程好きなのだと思います。

一般によく挙げられるのは、他の市場に比べてFXマーケットはフェア(公正)だということです。

確かに、世界中が参加しているマーケットですから、ロスカット狙いの投機的な売り買いが、たとえ出たとしても、きわめて一時的な動きであって、全体的な流れは、多少のことではびくともしない重量感を持って動いています。

それ以上に、私が面白いと思っていることは、FXマーケットを通じて、世界の動きに参画できるということです。

世界のいろいろな問題が相場を通じて身近なものになっていることで、グローバルな経済や政治に関わっているという実感が湧き、非常に好きな点です。

いろいろなグローバルな材料を吟味すると、時として、連鎖反応を起して大相場になることが予測され、それが実際となった時は、やった!という実感を持つことができます。

はたから聞けば、この人たちは何だろうと思われても仕方がありませんが、同好の士が飲み屋に集結し、新型肺炎の世界的な感染拡大について語るのは世間一般と変わらないにしても、トランプ大統領の対インド戦略を語った思えば、ドイツの景気動向を語り、オーストラリアの火災のオーストラリア経済への影響を語り、またノルウェーの政府系ファンドの動きを語り合っても、FXマーケットの人間であれば、普通のことです。

そのグローバルさが、私は好きです。

ところで、FXマーケットとマネーマーケット(金利の市場)との違いは、取り扱うものが異なるだけでなく、相場を見る見方がかなり違います。

FXマーケットでは、テクニカルな分析ももちろんありますが、同時にマーケットセンチメント(市場心理)を読み、大勢の考え方の裏を読もうとします。

マネーマーケットで相場を分析する上でも、もちろん、マーケットセンチメントも加味されますが、FXマーケットに比べて、格段に経済指標から得られるファンダメンタルズや金融当局者の発言などを基に論理的に分析して相場観を組み立てることに、重きが置かれています。

つまり、FXマーケットがパッション(感情的)なのに対して、マネーマーケットはロジック(論理的)だと言えます。

また、FXマーケットは、ポジションが偏ればその反対方向に相場が動いてしまい、一握りのディーラーしか儲からないゼロサムのマーケットと呼ばれます。

しかし、マネーマーケットでは、政策金利が下がると読んで、金利下げのポジションを張り、実際に政策金利が下がれば、それを見越して張ったディーラーは、皆儲かることになります。

したがって、ディーラーの気質も、FXとマネーとでは異なり、FXのディーラーは勝った負けたとにぎやかなラテン系なのに対して、論理を追求するマネーディーラーは沈思黙考型であることが一般的です。

私は、もともと金利畑の人間でしたので、にぎやかに騒いでいるFXディーラー達を、なにがそんなに楽しんだと冷めた目で見ていましたが、ひとたび、FXの一員になると、負けずににぎやかになりましたから、いい加減なものです。

しかし、そうしたFXディーラーとの付き合いは国を超えて広がり、やはりどこの国のFXディーラーも、癖はあっても、根は明るい連中で本当に仲間の輪が広がりました。

仕事でありながら、こうした交流を深めることができたことは、この上ない幸せであり財産だと思っています。

“Once a dealer, Always a dealer” (ひとたびディーラーになったら、一生ディーラー)

この言葉は、A.C.I.(国際フォレックスクラブ、仏語のAssociation Combiste Internationaleの略)という、国際的なFXインターバンクディーラーの親睦組織の合言葉ですが、その合言葉のような人生を、私は送っています。

  • 水上紀行(みずかみ のりゆき)

    バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。 詳しくはこちら